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119話
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宰相が扉近くの護衛に頷いて見せたかと思うと、部屋の扉が大きく開かれた。そこには……
「サーレム!いい加減にしなさい!!」
と逆光の中、腰に手をあて大きな声で殿下の名を呼ぶ女性のシルエットが現れた。
サーレム殿下はその声に『ビクッ!』と肩を跳ねさせたかと思うと、そーっと後ろを振り返り、
「ジャニス……」
と呟いた。
その逆光に浮かび上がった人物はズンズンと近づいて来たかと思うと、サーレム殿下の耳を掴んで引っ張り上げて、
「性懲りもなく、またこんな事をして!」
と殿下を叱責する。
陛下も私もその様子に口をポカーンと開けたまま何も言えずに居ると、
「あ!失礼いたしました。私はジャニス・カルガナル。この男の第一側室でございます。お初にお目にかかります。以後お見知りおきを」
と殿下の耳から手を離し、頭を下げた。
耳を離された殿下はドスンと椅子に落ちる様に再び座った。
殿下は必死につままれていた耳を擦る。随分と痛かった様だ。
私と陛下はそのドスンと言う音に我に返って、慌てて立ち上がり、
「私が国王のエリオットだ。そして……」
と私を指し示す陛下の言葉に続いて、
「私が王妃のクレアです。はじめまして。……貴女は御側妃にあたられる……?」
あれ?サーレム殿下は妃を持っていなかったのでは?と私は疑問を口にした。
すると、その女性……ジャニス様は、
「はい。私は第一側室のジャニス。サーレムには正妃はおりませんが、彼のハレムには私の他にあと、二十二人の側室がおりますの」
とにっこり笑った。
「二十二……では貴女を入れて二十三人か。報告書よりも多いな……」
と陛下は先程の書類に目を落とす。……なるほど、さっきの書類は調査隊による報告書だった様だ。
しかし……二十三人とは……多いな!!
「あぁ……最近また二人程増えましたの。管理する私も、もう手一杯ですわ」
とジャニス様は苦笑する。
「まぁ、立ち話も何だ、どうぞ座ってくれ」
と言う陛下。いつの間にかサーレム殿下の横に用意された椅子を指し示すと、ジャニス様は優雅に
「では、失礼いたします」
と微笑んで座った。
浅黒い肌に黒く艶のある長い髪を片側に緩く編んで垂らしたジャニス様は少し吊り目のとても美しい女性だった。特徴的にもカルガナル王国の人で間違いないだろう。暑い国であるカルガナル王国のお国柄だろうか、露出の多い出で立ちに少し目のやり場に困ってしまう。
そんなジャニス様に、サーレム殿下はばつが悪そうに、
「何故、ジャニスがこんな所まで……」
と口を尖らせた。
「陛下の体調が思わしくないのよ。それに、これ以上側室を増やされても困るの」
とジャニス様はサーレム殿下に向かって冷たく言うと、私をチラリと見た。
殿下は消え入りそうな声で、
「そ、側室ではなくて……」
とゴニョゴニョ言っているが、問題はそこではない。
「カルガナル国王は体調が?」
と陛下も私と同じ所に引っかかった様でジャニス様に尋ねた。
すると、殿下が、
「あの男は、いつも『体調が悪い』『もう死にそうだ』と言ってダラダラ過ごしている。いつもの事だ」
と顔を歪めて吐き捨てた。
「サーレム!いい加減にしなさい!!」
と逆光の中、腰に手をあて大きな声で殿下の名を呼ぶ女性のシルエットが現れた。
サーレム殿下はその声に『ビクッ!』と肩を跳ねさせたかと思うと、そーっと後ろを振り返り、
「ジャニス……」
と呟いた。
その逆光に浮かび上がった人物はズンズンと近づいて来たかと思うと、サーレム殿下の耳を掴んで引っ張り上げて、
「性懲りもなく、またこんな事をして!」
と殿下を叱責する。
陛下も私もその様子に口をポカーンと開けたまま何も言えずに居ると、
「あ!失礼いたしました。私はジャニス・カルガナル。この男の第一側室でございます。お初にお目にかかります。以後お見知りおきを」
と殿下の耳から手を離し、頭を下げた。
耳を離された殿下はドスンと椅子に落ちる様に再び座った。
殿下は必死につままれていた耳を擦る。随分と痛かった様だ。
私と陛下はそのドスンと言う音に我に返って、慌てて立ち上がり、
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と私を指し示す陛下の言葉に続いて、
「私が王妃のクレアです。はじめまして。……貴女は御側妃にあたられる……?」
あれ?サーレム殿下は妃を持っていなかったのでは?と私は疑問を口にした。
すると、その女性……ジャニス様は、
「はい。私は第一側室のジャニス。サーレムには正妃はおりませんが、彼のハレムには私の他にあと、二十二人の側室がおりますの」
とにっこり笑った。
「二十二……では貴女を入れて二十三人か。報告書よりも多いな……」
と陛下は先程の書類に目を落とす。……なるほど、さっきの書類は調査隊による報告書だった様だ。
しかし……二十三人とは……多いな!!
「あぁ……最近また二人程増えましたの。管理する私も、もう手一杯ですわ」
とジャニス様は苦笑する。
「まぁ、立ち話も何だ、どうぞ座ってくれ」
と言う陛下。いつの間にかサーレム殿下の横に用意された椅子を指し示すと、ジャニス様は優雅に
「では、失礼いたします」
と微笑んで座った。
浅黒い肌に黒く艶のある長い髪を片側に緩く編んで垂らしたジャニス様は少し吊り目のとても美しい女性だった。特徴的にもカルガナル王国の人で間違いないだろう。暑い国であるカルガナル王国のお国柄だろうか、露出の多い出で立ちに少し目のやり場に困ってしまう。
そんなジャニス様に、サーレム殿下はばつが悪そうに、
「何故、ジャニスがこんな所まで……」
と口を尖らせた。
「陛下の体調が思わしくないのよ。それに、これ以上側室を増やされても困るの」
とジャニス様はサーレム殿下に向かって冷たく言うと、私をチラリと見た。
殿下は消え入りそうな声で、
「そ、側室ではなくて……」
とゴニョゴニョ言っているが、問題はそこではない。
「カルガナル国王は体調が?」
と陛下も私と同じ所に引っかかった様でジャニス様に尋ねた。
すると、殿下が、
「あの男は、いつも『体調が悪い』『もう死にそうだ』と言ってダラダラ過ごしている。いつもの事だ」
と顔を歪めて吐き捨てた。
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