貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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110話

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「ねぇ、あれは何だい?」
「この食べ物は?どうやって食べたら良いんだろ」
「あそこは何を売っている店なのかな?」

これでは案内というより……殆どデートだ。

きっと私に付いて来ているロータス様もそう感じているのだろう。……苦虫を噛み潰した様な顔だ。
サーレム殿下ははしゃいだ様に私との王都を楽しんだ。

「これだけ王都が栄えているのに……失業者が多いのは不思議だな」
馬車の中で殿下がふと漏らした。

「今、王都に溢れている失業者の大半が……戦で食べていた者だそうです。前国王陛下は……武力で国を拡大、強固にするお考えでしたが、陛下は違います。私もこの事実を知らず、この前の炊き出しの際に驚いて陛下にお話を聞きました……自分の不勉強を反省した次第です」

「なるほど。国としては頭の痛い問題だな。平和が一番だが、それで食べていた者達もいる。どの国も多かれ少なかれ抱える問題だろう」

「……殿下はこの国で、何を知りましたか?わざわざ平民に紛れてまで知りたかった事とは、何だったのでしょう?」
私は疑問をぶつける。

「騙した事を根に持ってる?」
と殿下は少しはぐらかす様に笑った。

「いえ。びっくりはしましたが、私が怒る様な事ではありませんから」

「そうか。……この国はまだ発展途上だ。前国王陛下のお考えは国を広げ強くする事にあった様だが、国民全体を豊かにするにはまだ時間が掛かるだろう。王都はそこそこ栄えているが、領主の力量に差があるのか、地方は格差が酷そうだな」

……これは陛下も頭を悩ましている所だ。

「これから、私達が努力していかなければならない部分ですね」

「王族だけが努力しても仕方ない。腐った貴族はどの国にも一定数存在する。領民の事より、自分達の身ばかりが可愛い奴らだ」

「カルガナル王国にも?」

「あぁ、もちろん。だが僕はそれを是正しようと画策している。僕が国王になった暁にはカルガナル王国はもっと豊かになっている筈だ」
そう言ったサーレム殿下は自信に満ちあふれている様だった。

私はふと、

「共通言語もお話出来たのですね」
と思いついた事を言った。あの時はカルガナル語だけを喋っていたから。

「もちろん。王族として当たり前の事だからな。だが、僕がカルガナル語しか理解出来ていないと思えば、周りは自ずと口が軽くなる。『こいつの前でなら、何を言っても大丈夫だ』ってな」

私はそれを聞いて、

「もしや……我が国だけでなく、他国でもこの様な真似を?」

「あぁ。国交を結んだ後、どんな付き合いをすればカルガナルの利になるか……それを自分の目で確かめる為だ」

やはり彼は、一筋縄ではいかない人物の様だ。
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