貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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105話

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カルガナル語はあれから少しは上達した様に思う。サリムに発音を褒められた事がちょっぴり自信になっているのだが、今は絶対に口に出来ない名前だ。

とうとう明日に迫った歓迎会。カルガナルの王太子殿下を迎えるにあたって、宰相から注意事項を聞く。

「カルガナル王国は他人との接触を嫌いますので、握手はなしで」

「ふむ。気をつけよう。酒は勧めても良いのか?」

「はい。カルガナル王国では十五歳で成人。殿下は二十二歳なので、問題ありません」

宰相と陛下の話を聞きながら、心でメモを取る。

「殿下のお好きな物は?」
私が尋ねると、

「実はあまり殿下についての情報は少ないのです。絵姿すら公開されていませんし。年齢とお名前ぐらいしか確実な物がなくて……」

……そう言えばお名前を聞いていなかったわ。

「確か……カルガナル王国は年間を通じて暑い日が多いと聞いた」

私が名前を尋ねる前に、二人の話題は別なものに移っていく。

「そう聞いております。それでなのか、辛い食べ物を好む人が多いのだとか」

「辛い食べ物?余計に暑くなるだろう?」

「暑い中、汗をかきながら辛い物を食べるのだとか……」

「そうなのか?まぁ、辛い物も用意した方が良いだろうな」

「手配済みで御座います。お酒も度数の高い刺激的な物を好むとか」

「それも国民性か?」

「そのようでございます」

辛い食べ物かぁ……。そう言えば宿屋にカルガナル王国に行ったことがあるという商人が宿泊した事がある様な……。私は必死に記憶を辿る。

「あの……参考程度に聞いていただきたいのですけど……」
私は思い出した僅かな記憶を頼りに提案をする。

「ただ辛いもの……というのではなく、確かスパイスを多く使った料理を好まれるのではなかったかと……。可能であればそのような料理を用意しては如何でしょう。過去にカルガナル王国に渡った事のある商人がそう言っていた記憶がございます」

「なるほど!では、その様に料理長に伝えましょう。妃陛下ありがとうございます」
と宰相に礼を言われ、私は少し嬉しくなった。私の僅かな知識でも役に立てば嬉しい。……と思っていたのに、

「それは本当に商人の話か?」
と陛下が私に尋ねる。その顔は何かを疑っている様だ。陛下ったら……この前から何なの?私の気持ちを読めるくせに……。

「もちろんでございます。宿屋に訪れた商人の話を思い出しただけですわ」
と私がプイっと顔を背ければ、私と陛下の間で宰相がオロオロしてしまう。

最近、私達がギクシャクしているのを周りの皆はハラハラしながら見守っている。申し訳ないと思うのだが、私から謝るのも癪に障る。

私達がギクシャクしていようとも、夜は来て朝が来る。

カルガナル王国の王太子殿下をお迎えする日が容赦なく訪れた。
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