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104話

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「大変……申し訳ありませんでした」

床に付きそうな勢いで頭を下げた男性……ハワード侯爵だ。

「頭を上げろ。で?会ってきたか?」

「はい。……少しは落ち着いた様で私に謝罪をしておりましたが……」
と言葉を切ったハワード侯爵は私の方をチラリと見た。

「どうせ、クレアへの謝罪の気持ちはないと、そう言う話だろう?」
と陛下が呆れた様にそう言うと、

「申し訳ございません!私がきちんと管理出来ていなかったばかりに!」
とハワード侯爵はまた勢い良く、頭を下げた。

「侯爵が何度謝ったところで、あの女がした事が消えるわけではない。侯爵の気持ちがどうであれ……極刑は免れない」
陛下の言葉にハワード侯爵は、

「……仕方ありません。折角陛下に賜った温情を無下にしたのは、妹です。こんな事なら、ドーソン公爵と共に国外追放になっていた方が……」
とハワード侯爵は肩を震わせた。

前ドーソン公爵夫人……スーザン・ハワードは、娘であるアナベルが王妃になる事は至極当然の事であるとアナベルが子どもの頃より常々思っていた。
家柄、身分、教養全てにおいて自分の娘は誰よりも王妃に相応しいと信じて疑わなかったし、何より彼女の思惑通りアナベルは王妃となった。

しかし、アナベルに中々お子が出来なかった事が唯一の懸念材料であった様だ。アナベルにプレッシャーを与え続けていたのは、他ならぬスーザンだったと言う訳だ。

前国王陛下のご病気が発覚し、子を授かる事が難しいと判ると、ドーソン公爵はとんでもない手段を取る事になるのだが、それもこれも、スーザンからのプレッシャーを可哀想に思う親心だったのかもしれない。

アナベルの気性はスーザンのそれを色濃く継いでいた様だ。

今回の件で、夫と離縁し、娘共々失った事で彼女の精神は不安定になってしまった。
私を殺害しようと思ったのは、単なる八つ当たりだったのかもしれない。私が現れるまでは、まだ期待していた部分も多くあったのだろう。
地下牢に居る彼女は多くを語らない。ただ、私と陛下が憎いと繰り返しているだけだ。

彼女の処刑はカルガナルの王太子殿下の帰国を待って行われる事になった。

先ずは王太子殿下の歓迎会を成功させることが優先だ。
カルガナル王国の話題が出ると、つい考えるのはサリムの事だが彼の名を出す事は憚られる。

私と陛下の仲はギクシャクとしたまま、王太子殿下を迎える日が刻一刻と迫っていた。
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