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87話
しおりを挟む「カークランド、お前の指を見せてみろ」
そう言った陛下に、
「馬鹿馬鹿しい!!たかが絵が何の証拠に?もう茶番は真っ平、帰ります!」
とアナベル様が立ち上がろうとするのを横に立っていた護衛が肩を押さえつけて、椅子に座らせる。
「おいおい、帰るなよ。お前が今帰れば、きっとローランドの指を切り落とすだろうな……。そんな事はさせない。ここにローランドを連れて来る真似をしたくなかったから、絵で確認させたんだ。お前も言ってただろう?よく描けた絵だと」
『切り落とす』……その言葉に私は思わず手で口を覆った。きっと顔色は青ざめている事だろう。
自分の子どもの指を……切り落とすなんて。
私は庭に訪れる可愛いローランド様の笑顔を思い出していた。
「離しなさい!!無礼者!!私を誰だと思っているの!」
押さえつける護衛の顔を睨みつけながらアナベル様が吠える。
動揺している事は間違いない。アナベル様が前国王陛下を裏切っていたなんて……。
「黙れ!!いいか?良く聞けよ?お前……自分が何をしたのか、良ーく考えろ。
前国王の子と偽って、国民を騙した罪は軽くない。ここから、普通に離宮へと帰れるわけがないだろう。お前はこのまま牢屋行きだ」
と言った陛下は椅子の背もたれに体をゆっくりと預けた。
「たかだか、指がその男に似ていたから、何だと言うの?それが何の証拠に……」
「あの指はな、優勢遺伝だ」
と言って陛下は自分の両手を広げてみせた。
「ご覧の通り。あの指は前陛下の遺伝ではあり得ない。そろそろ自分の立場を理解しろ」
陛下の言葉に、アナベル様の唇が微かに震え始めた。
陛下は護衛に、
「連れて行け」
と声を掛ける。
護衛はアナベル様を立たせると、両脇を抱えて外へと連れて行く。
陛下はその背中に、
「お前の父親も終わりだ。共犯だからな」
と声を掛けた。アナベル様は一瞬振り返り陛下を睨んだが、何も言わずに、また前を向いた。
護衛に抗う事なく、アナベル様は部屋の外へと連れ出された。扉が大きな音を立てて閉じられる。
部屋には静寂が訪れた。
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