貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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82話

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「アナベルと話をする」
いつもの様に私を抱き締めて眠る陛下はそう言った。

「証拠が?」

「襲撃を指示した証拠はまだだ。何故か捕まえていた襲撃犯は牢の中で息絶えていた。看守の中にアナベルの手の者がいるのかもしれん。今調べているが、証人が居なくなったのは辛い」

「では、何のお話を?」

「……それは明日のお楽しみだ」

そう言う陛下の顔は、全然楽しそうではなかった。



翌日。陛下の前に現れたアナベル様はとても不快そうな様子で、

「国王になったからと、私を気安く呼びつけるとは……。偉くなったつもり?」

「虚勢を張るのはよせ。あの襲撃以来、いつ自分の悪事がバレるのかとビクビクしていたのではないか?結局、未遂に終わったしな」

……陛下にはアナベル様の不安が見えているのだろう。私にはふてぶてしい、いつものアナベル様にしか見えないが。

アナベル様はそれを聞いて、フッと笑った。そして、私を見ると、

「暴漢に襲われたと話は聞いたけれど、元気そうで何よりだわ」
と皮肉っぽく笑って扇で口を隠した。

「ありがとうございます」
と私が礼を口にすれば、彼女は私をキッと睨んだ。死んでなくてガッカリといった所か。

「ところで……アナベル。ジョージ・カークランドと言う男を知っているか?」

その名を聞いたアナベル様は片方の眉毛をピクリと動かした。

「さぁ?聞いたことありませんわ」
アナベル様はそう答えるが、陛下に嘘は通じない。

「そうか?おかしいな……ローランドの父親の筈だがな」

その陛下の言葉にアナベル様は肩が少しだけ上がった気がしたが、顔色を変えることはなかった。

逆に私は驚き過ぎて、つい陛下の方を口を開けて眺めてしまった。


「何を馬鹿な事を。例え国王であろうとも、言葉を選びなさい!無礼者!」
顔色は変わっていないが、アナベル様は不快感を顕にした。

「馬鹿な話かどうかは、今から話す私の話を聞いてからにしたらどうだ?まず……前国王陛下はある時期、体調を崩した。今から七年程前だ。覚えてるな?」

「覚えていますよ。結構長患いでしたからね……あれから陛下は度々寝込む事が多くなりましたしね」
サラッと前国王陛下の事を『陛下』と呼んだアナベル様は、エリオット陛下を依然国王と認めていないと言う表れだろう。いや、わざとかもしれない。
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