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61話
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騙された気分で一杯の私だが、今、とても緊張している。
陛下の計らいで、私達のお披露目の夜会はなかった。
結婚式で頭がパンクしそうだった私には有難い申し出だったので、ちょっとだけ感謝していたのだが『今日は初夜だぞ?夜会なんかで酒でも飲まされたら大事な時に役に立たない』と言われて、自分の置かれた立場に改めて気付かされた。
……結婚するという事は、そういう事も含まれているのか……。もう子どもも居るのだし、必要ないのだと思っていた。
マーサにまたもや体を磨き上げられ、白くて肌触りの良い上品な夜着を着せられた私は、王宮の陛下の部屋の隣に設えられた夫婦の寝室とやらに押し込まれていた。
反対側の扉に続く部屋は、明日から私の部屋になるのだそうだ。アイザックは既にその部屋で眠っているとマーサに聞いた。
明日からはマーサの姪御さんがアイザックの乳母としてやって来るらしい。
私は所在なく部屋の長椅子に浅く腰掛けた。
初夜……といっても初めてではないが、あの夜はコンラッド様を助けるという名目があった。助けたくて必死だったのだが、こうして冷静にそれを迎えようとすると、恥ずかしくて死にそうだ。
すると、陛下の部屋に繋がる方の扉が開き陛下が部屋へと入って来た。
私をチラリと見ると、さっさと寝台の方へと一人歩いて行く。
陛下は寝台に横になると、私に、
「お前、長椅子で眠るつもりか?」
と声を掛けてきた。
「許されるのなら、それでも構いません」
「俺が構う。ほら、こちらへ来い」
とシーツを捲って私に手招きをする陛下に、私は何も答えられなくてジッとしていた。
すると、陛下は笑いながら、
「嫌がる女を無理矢理抱く様な趣味はない。だが、風邪をひかれても困るんだ。横に寝るだけで良い。こっちに来い」
ともう一度手招きをした。
「何もしませんか……?」
と躊躇いながら寝台に近づく私の手を陛下が握ったかと思うと、シーツの中へ引っ張り込まれた。
「なっ!ちょっ!何をするんです!」
とシーツの中で後ろから私を抱き締める陛下に、抗議してその手から逃れようと体を動かす。
「抱き締めて眠るだけだ。これ以上は何もしない。だから、暴れるな」
「……本当?」
「本当だ」
「では、夜会を開かなかった理由は……?」
「面倒だからだ。俺の腕を買っている貴族は多いし、前国王よりはマシだと思われているだろうが、別に馴れ合いたいと思ってはないだろうさ」
「自分が信頼を置いている貴族だけで十分だと?」
「流石にそれでは国は回らん。面倒くさい付き合いもたまには必要だろうが、結婚式の日ぐらいは妻とゆっくり過ごしたって良いだろう?」
とからかう様に言う陛下の手の甲を思わず抓った。
「痛いな」
と笑う陛下に、
「私の事をからかってばかりだからです。私は、てっきり……」
「てっきり抱かれると思ったのか?覚悟があるなら、俺はいつでも良いぞ?」
「な!違います!」
「ふっ。だろうな。あの時だってお前が仕方なくああした事は分かっていたさ。だが、お前から俺に対する悪意も嫌悪も何も感じなかった。あの時感じたのは少しの哀れみと温かさだ」
「温かさ?」
「あぁ。今こうして一緒に居ても、お前から悪意は感じられない。やはり温かさを感じるんだ」
と言った陛下は私の背中に自分の額を付けるように顔を埋めた。
「……私も今、温かいです」
と私が呟くと、陛下が少し笑ったような気配がした。
陛下の計らいで、私達のお披露目の夜会はなかった。
結婚式で頭がパンクしそうだった私には有難い申し出だったので、ちょっとだけ感謝していたのだが『今日は初夜だぞ?夜会なんかで酒でも飲まされたら大事な時に役に立たない』と言われて、自分の置かれた立場に改めて気付かされた。
……結婚するという事は、そういう事も含まれているのか……。もう子どもも居るのだし、必要ないのだと思っていた。
マーサにまたもや体を磨き上げられ、白くて肌触りの良い上品な夜着を着せられた私は、王宮の陛下の部屋の隣に設えられた夫婦の寝室とやらに押し込まれていた。
反対側の扉に続く部屋は、明日から私の部屋になるのだそうだ。アイザックは既にその部屋で眠っているとマーサに聞いた。
明日からはマーサの姪御さんがアイザックの乳母としてやって来るらしい。
私は所在なく部屋の長椅子に浅く腰掛けた。
初夜……といっても初めてではないが、あの夜はコンラッド様を助けるという名目があった。助けたくて必死だったのだが、こうして冷静にそれを迎えようとすると、恥ずかしくて死にそうだ。
すると、陛下の部屋に繋がる方の扉が開き陛下が部屋へと入って来た。
私をチラリと見ると、さっさと寝台の方へと一人歩いて行く。
陛下は寝台に横になると、私に、
「お前、長椅子で眠るつもりか?」
と声を掛けてきた。
「許されるのなら、それでも構いません」
「俺が構う。ほら、こちらへ来い」
とシーツを捲って私に手招きをする陛下に、私は何も答えられなくてジッとしていた。
すると、陛下は笑いながら、
「嫌がる女を無理矢理抱く様な趣味はない。だが、風邪をひかれても困るんだ。横に寝るだけで良い。こっちに来い」
ともう一度手招きをした。
「何もしませんか……?」
と躊躇いながら寝台に近づく私の手を陛下が握ったかと思うと、シーツの中へ引っ張り込まれた。
「なっ!ちょっ!何をするんです!」
とシーツの中で後ろから私を抱き締める陛下に、抗議してその手から逃れようと体を動かす。
「抱き締めて眠るだけだ。これ以上は何もしない。だから、暴れるな」
「……本当?」
「本当だ」
「では、夜会を開かなかった理由は……?」
「面倒だからだ。俺の腕を買っている貴族は多いし、前国王よりはマシだと思われているだろうが、別に馴れ合いたいと思ってはないだろうさ」
「自分が信頼を置いている貴族だけで十分だと?」
「流石にそれでは国は回らん。面倒くさい付き合いもたまには必要だろうが、結婚式の日ぐらいは妻とゆっくり過ごしたって良いだろう?」
とからかう様に言う陛下の手の甲を思わず抓った。
「痛いな」
と笑う陛下に、
「私の事をからかってばかりだからです。私は、てっきり……」
「てっきり抱かれると思ったのか?覚悟があるなら、俺はいつでも良いぞ?」
「な!違います!」
「ふっ。だろうな。あの時だってお前が仕方なくああした事は分かっていたさ。だが、お前から俺に対する悪意も嫌悪も何も感じなかった。あの時感じたのは少しの哀れみと温かさだ」
「温かさ?」
「あぁ。今こうして一緒に居ても、お前から悪意は感じられない。やはり温かさを感じるんだ」
と言った陛下は私の背中に自分の額を付けるように顔を埋めた。
「……私も今、温かいです」
と私が呟くと、陛下が少し笑ったような気配がした。
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