56 / 127
56話
しおりを挟む
私が答えようと口を開いたその時、
「ローランド様!こちらに来ては行けないと何度も言われているでしょう?」
とロータス様がこちらに走り寄ったかと思うとその子どもを抱っこした。
すると、その後ろから
「ロータス、その手を離しなさい!誰の許可を得てローランドに触れているのです?」
という女性の声が聞こえた。
ギョッとしたロータス様は直ぐ様その子どもを地面へと降ろす。私もその声の方へと顔を向けた。
「………王妃陛下……?」
と私が小さな声で呟くより早く、ロータス様始め私の周りの護衛も、この男の子に付いてきた護衛や侍女も一斉に頭を下げた。
私も一足遅れて頭を下げようとすると、そのローランドと呼ばれた男の子は泣きそうな顔をして、私の後ろに回り込むとワンピースのスカートの影に隠れた。
そっと覗かせた顔が今にも泣き出しそうで、私は堪らず片手を伸ばし、その子の肩を抱いた『大丈夫だよ』と伝えたくて。
その子が小刻みに震えているのが、私の手のひらを通して伝わる。
……この子は……王妃陛下を恐れているのだわ。そして、さっき呼ばれた名を察するに……
「そこの女。我が息子から手を離しなさい。さもなくばその腕を切り落としますよ」
と静かながらも凄味のある声で王妃陛下が私に近付きながらそう告げる。
その声を聞いた男の子……ローランド王子は私のスカートをますます強く握りしめた。
近付いて来る王妃陛下と私の間にすかさずロータス様が割り込んだ。
「お言葉ですが妃陛下、ここは王太子殿下の宮。そしてここは王太子殿下のお庭でございます。ここへ来る事はご遠慮願いたいと、殿下からも申し伝えられている筈」
と言うロータス様の頬を妃陛下は思いっ切り扇で張った。
『バシン!』と言う音が響き、その音にローランド王子はますます震え始める。
ロータスさまの頬は扇で傷つけられたのか、薄っすらと血が滲んでいた。
王妃陛下は、
「本来なら、ここはローランドの物。薄汚いあの女の血を引く者には相応しくありません。ロータス。貴方、死にたいの?」
と少し目線を下げていたロータス様の顎を扇でクイッと上に向けた。
「何と言われましても、王太子殿下はエリオット様、その人でございます。ここで自由に出来るのは殿下だけ。お引き取り願いたい」
とロータス様は今度は妃陛下の目を真っ直ぐに見て、そう答えた。
妃陛下は面白くない……といった風に扇をロータス様の顎から離すと、『パチン!』と1度打ち鳴らしてから、今度は私を真っ直ぐに見た。
私は片手にアイザックを抱き、もう片方の手でローランド王子を私の背後にそっと押した。
私も彼女から目を離さない。離せば負けの様な気がしていた。
妃陛下は、
「お前が……。なるほど。生意気そうな顔だこと。薄汚いあの女の子どもにはピッタリね。身分の低い者同士お似合いだわ」
と扇で口を隠して笑う。その笑いが私や殿下を嘲るものである事は明白だった。
「ローランド様!こちらに来ては行けないと何度も言われているでしょう?」
とロータス様がこちらに走り寄ったかと思うとその子どもを抱っこした。
すると、その後ろから
「ロータス、その手を離しなさい!誰の許可を得てローランドに触れているのです?」
という女性の声が聞こえた。
ギョッとしたロータス様は直ぐ様その子どもを地面へと降ろす。私もその声の方へと顔を向けた。
「………王妃陛下……?」
と私が小さな声で呟くより早く、ロータス様始め私の周りの護衛も、この男の子に付いてきた護衛や侍女も一斉に頭を下げた。
私も一足遅れて頭を下げようとすると、そのローランドと呼ばれた男の子は泣きそうな顔をして、私の後ろに回り込むとワンピースのスカートの影に隠れた。
そっと覗かせた顔が今にも泣き出しそうで、私は堪らず片手を伸ばし、その子の肩を抱いた『大丈夫だよ』と伝えたくて。
その子が小刻みに震えているのが、私の手のひらを通して伝わる。
……この子は……王妃陛下を恐れているのだわ。そして、さっき呼ばれた名を察するに……
「そこの女。我が息子から手を離しなさい。さもなくばその腕を切り落としますよ」
と静かながらも凄味のある声で王妃陛下が私に近付きながらそう告げる。
その声を聞いた男の子……ローランド王子は私のスカートをますます強く握りしめた。
近付いて来る王妃陛下と私の間にすかさずロータス様が割り込んだ。
「お言葉ですが妃陛下、ここは王太子殿下の宮。そしてここは王太子殿下のお庭でございます。ここへ来る事はご遠慮願いたいと、殿下からも申し伝えられている筈」
と言うロータス様の頬を妃陛下は思いっ切り扇で張った。
『バシン!』と言う音が響き、その音にローランド王子はますます震え始める。
ロータスさまの頬は扇で傷つけられたのか、薄っすらと血が滲んでいた。
王妃陛下は、
「本来なら、ここはローランドの物。薄汚いあの女の血を引く者には相応しくありません。ロータス。貴方、死にたいの?」
と少し目線を下げていたロータス様の顎を扇でクイッと上に向けた。
「何と言われましても、王太子殿下はエリオット様、その人でございます。ここで自由に出来るのは殿下だけ。お引き取り願いたい」
とロータス様は今度は妃陛下の目を真っ直ぐに見て、そう答えた。
妃陛下は面白くない……といった風に扇をロータス様の顎から離すと、『パチン!』と1度打ち鳴らしてから、今度は私を真っ直ぐに見た。
私は片手にアイザックを抱き、もう片方の手でローランド王子を私の背後にそっと押した。
私も彼女から目を離さない。離せば負けの様な気がしていた。
妃陛下は、
「お前が……。なるほど。生意気そうな顔だこと。薄汚いあの女の子どもにはピッタリね。身分の低い者同士お似合いだわ」
と扇で口を隠して笑う。その笑いが私や殿下を嘲るものである事は明白だった。
423
お気に入りに追加
3,492
あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる