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35話
しおりを挟む「女将さん……」
「いいかい?今のクレアに大切なのは、とにかくアイザックを守る事だ。使える物は何でも使う!」
と言われた私は、
「そうですね。本当にそうです。私、何を意地張ってたんだろ……」
「さぁ、そろそろ出よう。また近衛がこの村に捜しに来るかもしれないよ」
と言われた私は、カバンを両手に持ち、おぶったアイザックに、
「さぁ、行きましょうね」
と声を掛けた。そして、もう一度女将さんに
「またいつか、戻って来ます」
と笑顔で挨拶した。さよならは言わなくて良い。私達は『またね』と再会を約束した。
家を出ると、サムが待っていた。
「ここらへんは辻馬車が通らないんだ。乗り場まで送るよ」
と言うサムに、私は、
「サムも本当に今までありがとう。たくさん助けて貰ったわ。……元気でね」
と笑顔を見せた。サムは何とも言えない顔で私を見ると、
「早く乗って。女将さんも」
と私達を急かす様にサムは言うと、御者の台に向かって行った。私達も荷馬車に乗る。
私達は荷台で並びながら
「サム、泣くのを我慢してんだよ。情けないねぇ。男のくせに」
と女将さんが言うのを私は、
「シーッ。聞こえますよ。寂しい時に男も女も関係ないですよ。……私だって寂しいです。この村から、皆から離れるのは。家を出る時には感じなかった気持ちです」
と小声で言った。
ガラガラと鳴る荷馬車の車輪の音が響く。私はこの村の風景を目に焼き付けた。
「じゃあ、達者でね」
「クレア、元気でな」
と辻馬車に乗った私を二人が見送る。
「はい。落ち着いたら手紙を書きます」
そう言って私は手を振った。
二人が私の乗った辻馬車を小さくなるまで見送ってくれている。私は涙を必死に堪えた。
私は馬車を乗り継いで南へ向かう。タリス村から三つ程離れた村までたどり着いた時には、既に日が暮れていた。
私は近くの宿屋を訪ねると、空室があるという。少し古い宿屋だが、今日はここに泊まる事にしよう。
私は二階の部屋に案内された。
荷物を置いて、アイザックを背中から下ろすと、ベッドに寝かせた。
「……ふふふ。良く寝てる」
アイザックは殆どぐずる事もなく、ここまで付いてきてくれた。生まれて半年の赤ん坊には酷だと思うが、命には変えられない。
私はアイザックにシーツを掛けてから、何気なく窓の外を見た。
「…………う、そ」
思わず私の口から言葉が漏れる。
暗くなった窓の外、宿屋の前の通りを歩く近衛騎士の姿が見えた。
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