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25話
しおりを挟む私は顔を上げて
「でも……私には貰う理由がありません」
と女将さんにそう言った。
この子を産んだのは私の意思だ。それにこの子は私の子。コンラッド様には関係……ない。
「そんな頑なにならなくても良いんじゃないのかい?下世話な話をする様だが、子どもを育てるのには金が必要だ。今すぐ……でなくても良い。本当に困った時に使っちゃどうだい?さっきから言ってる……そのネックレスだが、あんたの大切な物だろう?それを売るぐらいに追い詰められていたんじゃないのかい?」
そう優しく私を諭すように女将さんは言った。続けて、
「あんた……元は貴族なんじゃないのかい?このコンラッドって人はクレアの父親かい?」
と尋ねた。
私はゆっくりと首を横に振る。
「……確かに、私は貴族……と呼ばれる類の家に生まれました。しかし、そのコンラッド様は父親ではありません。私の父親は……私が居なくなった事すら気にしていないでしょう。いや、喜んでいるかもしれません」
そう言った私に、女将さんはとても悲しそうな顔をした。
すると、アイザックがフニャフニャと泣き始めた。
「おやおや。あんたに辛いことを思い出させた様だ。お母さんが悲しいと子どもも悲しくなっちまう。母親と子どもは例えお腹から出て別々になったって、何となく通じてるもんさ。まぁ、この感覚は大きくなるにつれて、薄れちまうがね。嫌な話は後にしよう。時間はあるさ。クレア、あんたが話したくなったらいつでも聞くよ」
「女将さん、ありがとうございます。私としては出来ればその小切手を使わずに暮らせるよう努力したいと思っています。なるべく仕事にも早く復帰したいと考えていて……」
と私が言えば、
「まぁ、慌てる事はない。しかし、仕事には早く復帰してもらえると嬉しい事も確かだ。あの呑気な旦那とばかり顔を突き合わせてたら、イライラしちまう。それにお客の皆もあんたに会いたがってるよ」
と女将さんは言ってくれた。気を使ってくれているのが痛いほど分かる。私は素直に感謝した。
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