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14話

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「そんな事は気にしなくて良いんだよ!
今はゆっくり休んで、自分も、お腹の子も元気にならなくちゃね。
あんたが何かしら抱えてこの村に来たのは分かっていたが、詮索するのは違うと思ってた。だが……それが間違いだったね。あんたを孤立させてしまった」

「孤立なんて……!私に勇気がなかっただけです。女将さんもご主人もサムも……宿屋で働く皆も、パン屋のジョナサンも八百屋のメリーも、皆が皆、優しくしてくれました。
でも私は自分からそれを素直に受け入れる事が出来なかったんです。それは……私が」

私は自分の身に起きた事を告白しようと口を開きかけた。
私が母を亡くしてからどうやって実家で生きて来たかを。どんな扱いを受けていたかを。
そのせいで人を信じられなくなっていた事を。
もちろんコンラッド様の事は言うつもりはない。それは私の胸に留めておくべき事だ。
でも、女将さんはそれを遮って、

「いいんだよ。あんたがどうして此処まで来たのかなんて、どうでも良いんだ。
辛い思い出なら捨ててしまいなさい。
ただ、これだけは覚えておいて。私達はあんたの味方だ。困った時はお互い様。助け合って生きていけば良いじゃないか。遠慮はなしだよ」
そう言って私の頭を撫でた。

「……女将さん……」
私は自分の頬を伝う涙を手の甲で拭った。


私は三日程経ってから仕事に復帰した。
宿屋の皆は温かく私を迎えてくれる。
お腹の子の父親について尋ねる者は誰も居なかったが、皆が私を気遣ってくれているのが痛いほど分かった。

私はそれからはきちんと医者にもかかり、仕事も無理をしないように努めた。少し前にせり出し始めたお腹に動きづらさを感じる様になった頃、隣国との小競り合いが始まったと国からのお達しがあった。

隣国とは言っても私の住む村とは真逆の国境沿いの話だ。特別、私達の村には影響はないようだが、この村に立ち寄る旅人の口から、その様子を知ることが出来た。

今日も宿屋の食堂ではその話でもちきりだ。


「王太子殿下自ら指揮を取っているらしい」

「殿下は近衛だろう?」

「あの人は全ての騎士団のトップだよ。総大将って所さな」

「だがしかし、何で自ら戦に?側妃の息子だからって、仮にも王太子殿下だぜ?死んじまったらどうするんだよ」

「未だに王妃様はローランド殿下が王太子になる事を諦めていないらしいから、出来れば死んで欲しいぐらい思ってるんじゃないのかね」

「しーっ!馬鹿、そんな事言ったら不敬罪で捕まるぞ!捕まるどころか、あの王太子殿下だったら、殺されちまうかもしれん」

「でも、剣の腕は誰より確かだ。こんな小競り合いぐらいで、殿下が殺られちまうなんて事は考えられないよ」

「あぁ、違いない」

今日も王太子殿下の話が皆の口に上っていた。
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