乙女ゲームに転生しましたが、パラ上げで心が折れそうです。

初瀬 叶

文字の大きさ
上 下
31 / 43

モブとヒロイン

しおりを挟む

本郷先輩と戸川先輩の関係


…………それは、ただの友達でした!

「先輩って…彼女とか居ますか?」

と、直球ストレートにメッセージを送ると、

「いや。今は居ないよ」
との返事。

『今は』って所が微妙だけど、そこを気にしたって仕方ない。
私は今を生きる女。過去は過去。振り返っていては前に進めない。
とりあえず、先輩はフリー。これで略奪愛はなくなった。

モブ(戸川)先輩は、絶対に本郷先輩に気があるだろう。それは想像つく。
あんなカッコいい人が側に居たら惚れる。絶対惚れる。

本郷先輩は今は受験勉強で忙しいはずだけど、メッセージを送れば、きちんとマメに返してくれる。

私が『受験勉強のお邪魔じゃないですか?』と聞けば、『息抜きに丁度良いから気にしないで』と優しい返事。
こりゃ~惚れる。

そうやって、少しずつ距離を縮める事に成功した。
メッセージのやり取りなら、モブ先輩に邪魔される事はない。



そうこうしていると、ある日の放課後、モブ先輩に呼び出された。

呼び出しって本当にあるんだぁ~と思わず感心してしまう。

ベタに校舎裏へ呼び出された。

「ねぇ。渉に付きまとうの止めてくれない?」
うーん。お約束。

「付きまとっているつもりはありませんが…」

「渉がね、迷惑してるのよ!今は受験前で、只でさえ忙しいんだから。
あなたなんかに構ってる暇はないの!あなた、渉の立場わかってるの?」

「立場ですか?」

「そうよ。お父様の跡をついで立派な弁護士になるっていう夢が渉にはあるの!邪魔しないで頂戴!」

…そこまで聞いて私は、あ~こうやって本郷先輩は、周りからもプレッシャーを与えられてきたんだなって思った。

しかし、ここで私が『先輩は弁護士になんてなりたくないんですよ!』なんて言う必要はない。


「これって…本郷先輩が迷惑って言ってたんですか?」

「渉が言えないから、私が代りに言ってあげてるの。渉は優しいから、あなたに遠慮してるのよ。
ねぇ、もう渉の周りをうろちょろしないで。目障りよ!」
…最後の『目障りよ!』はあなたの気持ちですよね?

「…私も本郷先輩のお邪魔をするつもりはありません。ただ…先輩からのメッセージを拒否するつもりもありません」
私は戸川先輩の目を見てはっきり言う。

…本郷先輩の方からメッセージが来る事がないわけじゃない。
生徒会の可愛い後輩を心配する内容だったとしても、それをライバルに教えてあげる程、私は優しくない。

「なっ…!」
戸川先輩は絶句していた。そんなにショック?!

「それすらも戸川先輩が気に入らないと言うなら、本郷先輩の方へ言って下さい。
もうお話はお済みでしょうか?済んだなら、戻りたいんですけど…」
と私が言った途端、私の頬に痛みが走った。

真っ赤な顔をした戸川先輩が私の頬を打ったのだ。… 痛い。

戸川先輩も、思わず手が出てしまったのか、私の頬を叩いた掌をじっと見ていた。

そんな私達の背後から、

「戸川!何してるんだ!」
と、少しの怒りと戸惑いを含んだ、本郷先輩の声がした。

私は打たれた頬に手を当てたまま振り返ると、顔色を変えた本郷先輩が走ってきた。

「坂崎!大丈夫か?」
その声に、思わず我にかえる。

「…痛いです…」
私は素直に告げた。大丈夫です、なんて言ってあげない。

先輩は私が頬に当てていた手をゆっくりと剥がすと、赤くなった私の頬に自分の手を添えた。

外にいたんだろうか?その手は少し冷たくて、熱をもった頬にひんやりと気持ちよかった。

「…赤くなってる」
まるで本郷先輩の方が痛みを感じているように、顔をしかめた。

「戸川…なんでこんな事を?」
静かに本郷先輩は戸川先輩に問いかけた。しかし戸川先輩は、

「なによ!この子が悪いのよ!渉の大事な時間を邪魔するんだもの!なんで、こんな子とメッセージのやり取りなんてしてるのよ!」

「……なんで、僕が坂崎さんとメッセージのやり取りしてるのを戸川が知ってるんだ?」
…本郷先輩の声に怒りが滲む。

「あっ…それ…は…」
戸川先輩が言い淀む。

「戸川…お前、僕のスマホ、勝手に見たのか?」

「ち、違う!違うの、本当に違う!」

違うとは言っても、何故知ってるのかを言わなければ、スマホを見た事を否定する事は出来ないのに、戸川先輩は目に涙を浮かべて、子どもがイヤイヤするように首を横へ振るだけだ。
この様子だと、きっと、勝手に見たんだろうな…。

「戸川…友達だと思ってたけど。もう僕に話しかけないでくれるかな?
顔も見たくないから。
坂崎さん、頬、冷やしに行こう」

そう言って私の肩を本郷先輩は抱きながら、戸川先輩に背を向けた。そして私達が歩き出すと、後ろで戸川先輩が泣き崩れた。
私はそれを振り返って確認したが、本郷先輩が振り返る事はなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

処理中です...