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ピンチはチャンス?
しおりを挟む落ち込んだ私は、森田にそれ以上の事は聞けず、
「なんか…気分悪いかも…」
と仮病を使い、保健室へ行く事にした。
付き添うと言う森田をやんわりと断り、トボトボと保健室に向かう。
保健の先生からも
「あら?顔色悪いわね?休んでく?」
と言われる程には顔色が悪いらしい。仮病だと疑われなかったようだ…良かった。
保健室のベッドに横たわり私はこれからの事を考える。
まさか攻略対象に彼女がいるとは…確かに三角関係的なスリルを味わう乙女ゲームは存在するし、逆ハーエンドなるものが存在するゲームもある。
でも、それはヒロインがモテモテになるパターンよね?
『私の為に喧嘩はやめて!』とか『私は皆が好きよ』とか、そういう類いの悩みを味わいながら、ヒロインが調子に乗っていく…そんなパターンなら想像はつく。
そんな風にモテてみたいという乙女の願望を叶えてくれるシステムだ。
それこそ乙女ゲームだろう。
でも、略奪かぁ……後味悪すぎない?
まぁ、ライバルぐらいなら、有りだとは思う。それも恋のスパイスだ。
でもなぁ。幸せな2人を壊すってのは…私の主義ではない。
それは元々の私の性格だが、『人の物は人の物。私の物は私の物』だ。
かの有名なネコ型ロボットの漫画に出てくるガキ大将とは相容れない。
私は人の男に興味はない。
もう……諦めるか……。
かといって今更、攻略対象を変えるのもなぁ~。
…このまま先輩が卒業したら、私には連絡手段すらない。
まだ連絡先を交換してもいないからだ。
はっきり言えば、その条件を満たす程の好感度を得られていないということだ。
今なら、攻略対象を代えれる?いやいや、他の人を選ぶとして…誰を?
今のところ選べるとしたら、爽太くんの一択だ。
夏目先生とは、修学旅行で会話したぐらいで、そもそも絡みはない。
隠しキャラの叔父さんも論外だろう。
でも爽太くんを選ぶなら、バスケ部のマネージャーにならないと不味い。
生徒会に入ってしまった私がバスケ部のマネージャーまでする羽目になったら……考えるのも恐ろしい。
パラ上げ、受験勉強、生徒会活動、読書。それにバスケ部のマネージャーって…地獄でしかない。
かと言って、1回引き受けた生徒会を辞めるなんて事は出来ないし。
……もしかして、私、詰んでます?
保健室のベッドで悶々と悩んで居ると、保健の先生が
「どう?具合は?もう授業は終わりの時間だけど、まだ気分悪いなら、もう少し休んでても良いわよ?」
と声をかけてくれた。
私はお言葉に甘えてもう少し休ませて貰うことにする。
今、家に帰って、パラ上げだの、受験勉強だの考えたくもなかった。
「いいわよ、もう少し休んでて。でも、私ちょっと職員会議に出なきゃいけないから少し席を外すけど良い?
30分もすれば戻ってくるから」
と言って、出ていった。
私は保健室に1人。遠くで生徒の声が聞こえる。
あ~もう放課後かぁ…なんて思いながら、うとうとしていると
「すみません。先生いますか?」
と保健室の扉が開いて、先生を探す声が聞こえた。
この声……と私が思っていると、ベッドを囲んでいたカーテンが静かに開けられた。
「え?先輩?」
私はカーテンから覗いた顔にびっくりする。
本郷先輩がそこに居た。
「あ、ごめんね。勝手に開けて。先生居ないみたいだから…」
「先生は今、職員会議で…」
「そっか。じゃあ坂崎さん1人なんだ」
「はい。先輩は?どこか悪いんですか?」
とここに顔を出した理由を聞く。
「いや。さっき、廊下で森田に会ってさ。
僕の好きなお菓子の袋を持って、トボトボ歩いてたから声をかけたら『これ…花音が先輩にお土産って買ったお菓子なんっすけど、花音、気分悪くなったって保健室行っちゃったんですよ。これ生徒会室に置いたままにしとけないし…保健室に持って行こうか、それとも教室に置きに行こうか迷ってて』って言っててさ。
坂崎さんが具合悪いって聞いたから、ちょっと心配になって」
と言ってくれた。
え?私を心配してくれた?
私は、さっきまでウジウジしていた気持ちは何処へやら、急に心がパーッと、明るくなる。
ニヤつきそうな頬を引き締め、
「あ、少し気分が悪かっただけなんで、大丈夫です。
もう少し休んだら帰ろうと思ってて…」
と私が言うと、
「そう?あんまり無理しないでね。
でも、顔色はそこまで悪くなくて安心したよ。
じゃあ、僕は失礼するね。
休んでた所、邪魔してごめん」
え?もう帰っちゃうの?と思うけど、引き留める手段がない。
「あ、あの先輩。
お土産…もしかして、森田くんから渡されました?」
と、最後の無駄な足掻きで話しかけてみる 。すると、
「いや。せっかくなら、坂崎さんから直接貰いたいから、後で本人から貰うって言っといた。
森田も坂崎さんを無視して渡すのは悪いと思ったみたいで、教室に持って行っとくって言ってたよ」
………。先輩……期待しちゃいそうですけど?
そんな事言われたら、天にも昇りそうですけど?
彼女居るなら、そんなに優しくしないで欲しい。
「じ、じゃあ、改めて、お土産渡しに行きます」
「うん。あ、でもタイミング悪くて会えなかったりしたら申し訳ないから…僕の連絡先教えておこうか?」
え?え?もしかして、連絡先交換イベント?ねぇ、誰か教えて。
これって…そうだよね?
「あ、はい。よろしくお願いします」
と喜んで返事をして、ふと私は気がついた……スマホは鞄の中…そしてその鞄は…教室…………詰んだ………。チーン。
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