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チャンス!
しおりを挟むパラ上げに失敗した私だが、諦めるわけにはいかない。
代表に選ばれず、生徒会に入れなくても、本郷先輩との絡みを多くし好感度をあげる事は可能なはずだ。
あくまでも生徒会は近道だ。
しかし、本郷先輩を攻略するには、知力パラメーターが他のパラメーターより断トツに必要だ。
確か最終的に知力 180 体力100 魅力 100が必要だ。
やっぱり勉強は頑張らなければ、明るい未来はやってこない。
あと、7月には『AKARI』と知り合うイベントがあるはずだ。知り合うと言ってもSNS上でだが。
それまでに本郷先輩と顔見知り程度にはなっておきたい。
私は放課後になると、特に用事もないのに生徒会室前を彷徨くことにした。
弁論大会イベント失敗の私には、これしか道は残されていない。
なんとか本郷先輩に顔を覚えてほしい。
生徒会室前を彷徨き始めて5日目、私にチャンスが巡ってきた。
本郷先輩が資料を山程抱えて、廊下を歩いてくる。
「良かったら、お手伝いしましょうか?」
ちょっと声が上擦ったがご愛嬌だ。
「ん?ああ、ごめんね。前が見えなくて。そうかい?じゃあこれを一緒に運んでもらって良いかな?」
声もカッコいい。脳内リピート確定だ。
このゲームは声優さんも豪華だった為、余計に人気だった事を思い出した。
私は本郷先輩と並んで資料を運ぶ。
「これって明日の弁論大会の資料ですね?」
苦い思い出だ。
「ああ、そうだよ。君は…2年生?」
先輩は私の制服のネクタイの色を見て言った。
「はい。2年C組の坂崎 花音です。」
「坂崎さんね。僕は生徒会長をしてる本郷 渉だ。よろしくね。」
知ってます!知ってます!
心の中で返事をする。
「はい!よろしくお願いします。」
何をよろしくされたいのかわからないが、私は元気よく挨拶した。
体育館に私達は資料を運ぶ。
「ありがとう。助かったよ。」
笑顔が眩しい。
体育館では、他の生徒会役員がパイプ椅子を並べていた。
「いえ、お役に立てて良かったです。
あの…椅子を並べるのもお手伝いさせてもらって良いですか?」
「え、そんな申し訳ないよ。」
そう言って先輩は断ろうとしたが
「渉先輩!いいじゃないですか、手伝ってもらいましょうよ。今は猫の手も借りたいんですから。」
そう声を掛けて来たのは、あれ?同じクラスの人じゃなかったっけ?……確か森本?森田?くんだ。
モブなので、ゲームでは名前なんてなかったけど、ここでは、これが現実なんだ。私はモブの人達に名前が付いている事に密かに感動していた。
「でも、坂崎さんいいのかい?
忙しくない?」
「ぜーんぜん暇です!お手伝いさせて下さい!」
なんか、物凄い暇人みたいだが、このチャンスは逃せない。
チャンスの神様には前髪しかないのだ。掴み損ねるわけにはいかない。
「じゃあ、こいつと一緒に並べて貰える?」
といって、私のクラスメイトを指差し、私を紹介しようとして
「彼女は…」
「坂崎さんだよね?俺、同じクラスの森田 だよ。覚えてくれてたかな?
副会長やってます!じゃあ、早速並べてもらって良い?前に倣って、その後ろに並べてくれたら良いから。椅子はステージの下から出してね。」
森田だった。
「覚えてましたよ。ステージの下から出せばいいんですね。了解です。」
「同級生なんだから、タメ口でいいよ。」
「はーい。」
私は森田くんの後について、椅子を取りに行く。せっかく本郷先輩と仲良くなれるチャンスだと思ったのに…いや、とりあえず役に立って私を覚えてもらわなきゃ!
私はチラチラと本郷先輩を見ながら、椅子を並べてゆく。
「坂崎さん、学校慣れた?」
森田くんが話しかけてきた。
「うん。だいぶ。」
「そっか。転校したてだし、なんか困った事あったら、いつでも言ってよ。俺、こう見えて、面倒見が良い方なんだ。」
森田くん…いい人だ。
察するに、女の子には『いい人なんだけどねぇ~』って言われちゃうタイプの人だろう。
いい人止まりって感じ。
見た目はそんな悪くないけど、攻略対象程のキラキラ感はない。
やっぱりモブって感じ。
「ありがとう。なんかあったら相談に乗ってね」
「もちろん!」
転校してきて約1ヶ月。転校生特有の物珍しさも落ち着いてきて、私にも友人と呼べるぐらいのクラスメイトは出来た。
しかし、如何せん私の中身は29歳。
同級生とは一回り程の年齢差だ。
女子高生のテンションについていけず、
「なんだか、花音ちゃんって大人っぽいよね。落ち着いてるし」
と言われてしまう。
ゲームでは、心の傷を隠す為か必要以上に明るく振る舞っていたヒロインだったのだが、この世界のヒロイン(中身私)は、そこまで底抜けに明るく出来ない。
これで、物語が変わったらどうしよう。
私達は椅子を並べ終えた。意外と肉体労働。
本郷先輩はステージ上で、作業してる。
やっぱり攻略対象なだけあって、カッコいい。
オーラが違う。
私がぼーっと本郷先輩に見とれていると、森田くんが
「坂崎さんって、渉先輩に興味ある感じ?」
と聞いてきた。
「え!?いや、素敵だなっとは思うけど…」
歯切れの悪い感じになる。
まだ仲良くもなってないのに、狙っている事がバレたら、意味もなく生徒会室付近を徘徊できなくなる。
だって、それはストーカー認定されるから。
「まぁ、男の俺でもカッコいいって思うもんな。顔良し、頭良し、性格良し。その上、弁護士目指してるって、なんか完璧だもんな。」
ーそう。表面的には本郷先輩は弁護士を目指してるって事になってる。
それは先輩のお父様が弁護士で、息子にも同じ道を歩んで、さらに自分の事務所を継いでほしいと思っているから。
でも、先輩は弁護士になりたくない。
これが先輩の悩みの種だ。
この悩みを私が知って、先輩の心に寄り添い、解決してあげる事で、最終的に私を大切な唯一だと思ってくれるようになる。
とにかく、その悩みを打ち明けてもらえるようになるには、好感度が必要だ。
しかも、先輩は1学年上。
来年の3月には卒業してしまう。
それまでにある一定ラインの好感度に上げていないと、卒業後に連絡を取る手段がなくなる。
これは全ての攻略対象に当てはまるが、一定ラインの好感度を越えると連絡先の交換が出来て、デートをする事が出来るようになる。
デートをすれば、好感度は益々上がりやすくなるので、連絡先交換イベントをどれだけ早く迎えるかによって、その後の好感度上げが楽になるかどうかが決まるのだ。
パラメーターと好感度、この両方をいかに早く上げられるかが、攻略の鍵となる。
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