67 / 83
第67話
しおりを挟む
「マギーは?」
朝になり、マギーとは違う侍女が部屋へ現れた。
「それが……突然居なくなりました」
「居なくなった?!」
毎日私を見張る様に引っ付いていたマギーが居なくなった?
私が偽物とバレない為に……大切なメリッサ様を捜索されない為に、私の側に居たのに?
考えられる理由は……メリッサ様が安全な場所へ逃げ出した……という事か?
私が黙り込んでいると、
「あの……妃陛下にとっては不本意だと思いますが、マギーに代わり私が。侍女長のサラと申します」
とそのサラと名乗った侍女長が頭を下げる。
「あ……ええ。これからよろしくね」
思考の海から帰ってきた私が微笑むと、サラは
「本当に……妃陛下はお変わりになられたのですね」
と私に言った。
「そう?」
「はい。皆、別人の様だと」
別人だもん……とは言えないけど、私はもうどうにでもなれの精神だ。
「心を入れ替えたの。だって私、ここで孤立してたでしょう?」
流石に『嫌われてたでしょう?』には侍女長も答え難いだろう。
「妃陛下が……お望みになったので」
これにも答え難そうに小さな声でそうサラは言った。
「そうね」
メリッサ様の気持ちが分からない私にはこれしか答えられる言葉はなかった。
まぁ、マギーも居なくなったし、ノアも休みというし……私はもう自由に過ごす事を決めた。
これから、使用人とも仲良くしていこう。そう思っていたのだが、陛下が議会の途中で倒れたという話を聞いて、それどころではなくなってしまった。
「陛下!大丈夫ですか?」
「あ……あぁ。大丈夫だ」
寝台に休んでいる陛下に駆け寄る。陛下は私を目だけで追ってそう震える小さな声で答えた。
大丈夫……ではない事は見てわかる。
陛下は小さな声で
「二人にしてくれ……」
と周りの者達へ言うと、皆は部屋を出て行った。
私は寝台の横へ腰掛け、陛下の手を握る。
「顔色が悪いです……」
その私の言葉には答えず、陛下は少しだけ私の方へと顔を向けると、真面目な顔で言った。
「ニコル、今直ぐ逃げなさい」
陛下に名前を呼ばれたのは……初めてかもしれない。
「どうして?」
「今日の議会で……貴族でさえ食べる物が足りなくなってきたと……すると、宰相はこう言った『他国へと攻め入れば良い』と。略奪すれば良いと言っているのだ」
「そんな!!酷い」
「そんな事はしたくない。それに、我が王国軍はもう内乱で疲弊している。逆に負けて終わる」
「敗戦が分かっているのに戦うのですか?そんなのおかしいです」
「近衛まで戦に使えと言い出した……分かっているんだ、実際戦争は起こらない。近衛を私から遠ざける、そのどさくさに紛れて私を殺す気なのだ。それが狙いだ」
「……!それは……誰の?」
「宰相だ。あいつが反乱軍の……黒幕だ」
私は驚いて声を出しそうになるのを必死に堪えた。
「反乱軍の黒幕が……宰相?彼も反乱軍の敵なのでは?」
「あいつの狙いは王の座だ。反乱軍を使い、王国軍を…、近衛を私から離し、暗殺する。あいつの後ろにいるのは……メドレスだろう。この国はメドレスの属国となり、その上であの宰相が王の座に就く。そういう筋書きだ」
「では……反乱軍も真の目的は知らない……と?」
「あぁ……反乱軍は純粋に王政の廃止を訴えている。上級貴族の権力を剥奪し、平等な世を目指す。民衆の選んだ者がこの国を指導する……そのつもりだろう」
「反乱軍も騙されてる?」
「そうだ」
「どうして……どうしてそれを知りながら放っておいたのですか?」
「……どうせ私はもうすぐ死ぬ。……病気なんだ」
私はその言葉に目の前が暗くなる感覚を覚えた。
朝になり、マギーとは違う侍女が部屋へ現れた。
「それが……突然居なくなりました」
「居なくなった?!」
毎日私を見張る様に引っ付いていたマギーが居なくなった?
私が偽物とバレない為に……大切なメリッサ様を捜索されない為に、私の側に居たのに?
考えられる理由は……メリッサ様が安全な場所へ逃げ出した……という事か?
私が黙り込んでいると、
「あの……妃陛下にとっては不本意だと思いますが、マギーに代わり私が。侍女長のサラと申します」
とそのサラと名乗った侍女長が頭を下げる。
「あ……ええ。これからよろしくね」
思考の海から帰ってきた私が微笑むと、サラは
「本当に……妃陛下はお変わりになられたのですね」
と私に言った。
「そう?」
「はい。皆、別人の様だと」
別人だもん……とは言えないけど、私はもうどうにでもなれの精神だ。
「心を入れ替えたの。だって私、ここで孤立してたでしょう?」
流石に『嫌われてたでしょう?』には侍女長も答え難いだろう。
「妃陛下が……お望みになったので」
これにも答え難そうに小さな声でそうサラは言った。
「そうね」
メリッサ様の気持ちが分からない私にはこれしか答えられる言葉はなかった。
まぁ、マギーも居なくなったし、ノアも休みというし……私はもう自由に過ごす事を決めた。
これから、使用人とも仲良くしていこう。そう思っていたのだが、陛下が議会の途中で倒れたという話を聞いて、それどころではなくなってしまった。
「陛下!大丈夫ですか?」
「あ……あぁ。大丈夫だ」
寝台に休んでいる陛下に駆け寄る。陛下は私を目だけで追ってそう震える小さな声で答えた。
大丈夫……ではない事は見てわかる。
陛下は小さな声で
「二人にしてくれ……」
と周りの者達へ言うと、皆は部屋を出て行った。
私は寝台の横へ腰掛け、陛下の手を握る。
「顔色が悪いです……」
その私の言葉には答えず、陛下は少しだけ私の方へと顔を向けると、真面目な顔で言った。
「ニコル、今直ぐ逃げなさい」
陛下に名前を呼ばれたのは……初めてかもしれない。
「どうして?」
「今日の議会で……貴族でさえ食べる物が足りなくなってきたと……すると、宰相はこう言った『他国へと攻め入れば良い』と。略奪すれば良いと言っているのだ」
「そんな!!酷い」
「そんな事はしたくない。それに、我が王国軍はもう内乱で疲弊している。逆に負けて終わる」
「敗戦が分かっているのに戦うのですか?そんなのおかしいです」
「近衛まで戦に使えと言い出した……分かっているんだ、実際戦争は起こらない。近衛を私から遠ざける、そのどさくさに紛れて私を殺す気なのだ。それが狙いだ」
「……!それは……誰の?」
「宰相だ。あいつが反乱軍の……黒幕だ」
私は驚いて声を出しそうになるのを必死に堪えた。
「反乱軍の黒幕が……宰相?彼も反乱軍の敵なのでは?」
「あいつの狙いは王の座だ。反乱軍を使い、王国軍を…、近衛を私から離し、暗殺する。あいつの後ろにいるのは……メドレスだろう。この国はメドレスの属国となり、その上であの宰相が王の座に就く。そういう筋書きだ」
「では……反乱軍も真の目的は知らない……と?」
「あぁ……反乱軍は純粋に王政の廃止を訴えている。上級貴族の権力を剥奪し、平等な世を目指す。民衆の選んだ者がこの国を指導する……そのつもりだろう」
「反乱軍も騙されてる?」
「そうだ」
「どうして……どうしてそれを知りながら放っておいたのですか?」
「……どうせ私はもうすぐ死ぬ。……病気なんだ」
私はその言葉に目の前が暗くなる感覚を覚えた。
159
お気に入りに追加
573
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。

貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる