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第47話
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部屋に戻る私に、
「暗いな。どうした?」
とノアが心配そうにそう言った。
「別に……分かっていた事だけど、はっきり言われると……ね」
人はいつか死ぬ。だがそのいつかはもっと先だと思っていた。
「……待ってて欲しい。絶対に見つけるから」
ノアの言う『見つけるもの』がメリッサ様だという事は分かっている。
「絶対って……。でも、見つけたとしてどうするの?」
「連れ戻す。そしてお前を解放する」
「公爵がそんな事させる筈ないわ。それより王国軍が勝つように祈ってたら?」
私は茶化す様にそう言ったが、ノアはそれに対しては何も言わなかった。
……王国軍が勝つ確率はそんなに低いのだろうか?ここに居ると、そういう情報が全く耳に入ってこない。平和そのものの様なこの場所がいつの日か戦場になるのだろうか?
「努力するよ。公爵は手強いが俺も剣の腕には自信がある」
「切り合うって事?!」
私の声は少し大きくなり過ぎた。ノアが『シーッ』と指を自分の口に当てて黙る様にジェスチャーで示す。
人が剣で切られている所など見たことない私は、一気にその非現実的光景が身近に感じられ、怖くなり立ち止まる。
そんな私にノアは、
「騎士の仕事だ。心配するな。さ、行くぞ」
と声を掛けた。
私はこの少し強面で、横柄な態度の騎士が目の前から居なくなるかもしれないという事実に、恐怖を覚えた。
その夜。私はなかなか寝付けずにやたらと肌触りの良い夜着の上にガウンを羽織り、寝室を出た。
さて……疲れるまでまた床でも磨くか……そう思った時、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
不審者かと思い、身構える。
キョロキョロと周りを見回し武器になる物を探す。私が眠れない時の掃除用にと置いてあったモップを棚から出し、私は構えた。
『コンコン』
まだ窓は叩かれている。バルコニーに出る為の窓だ。……ということは敵はバルコニーに居るという事だ。
私はモップを握り直し、ゆっくりと窓へと向かった。すると、
「おい。開けてくれ」
と言う声が聞こえる。この声は……。
「ノア?」
私は聞き覚えのあるその声の主の名を呼んだ。
「そうだ」
私はモップを握ったまま、カーテンを開く。
そこにはバルコニーに立つノアの姿があった。
いつもの近衛騎士の制服ではなく、上下黒の装束に身を包んだノアは、いつもと少し違って見えた。
私は窓の鍵を外し、ノアを部屋へと招き入れた。
ノアは私が持っていたモップに目をやると、
「それで何するつもりだったんだ?」
と苦笑した。
「暗いな。どうした?」
とノアが心配そうにそう言った。
「別に……分かっていた事だけど、はっきり言われると……ね」
人はいつか死ぬ。だがそのいつかはもっと先だと思っていた。
「……待ってて欲しい。絶対に見つけるから」
ノアの言う『見つけるもの』がメリッサ様だという事は分かっている。
「絶対って……。でも、見つけたとしてどうするの?」
「連れ戻す。そしてお前を解放する」
「公爵がそんな事させる筈ないわ。それより王国軍が勝つように祈ってたら?」
私は茶化す様にそう言ったが、ノアはそれに対しては何も言わなかった。
……王国軍が勝つ確率はそんなに低いのだろうか?ここに居ると、そういう情報が全く耳に入ってこない。平和そのものの様なこの場所がいつの日か戦場になるのだろうか?
「努力するよ。公爵は手強いが俺も剣の腕には自信がある」
「切り合うって事?!」
私の声は少し大きくなり過ぎた。ノアが『シーッ』と指を自分の口に当てて黙る様にジェスチャーで示す。
人が剣で切られている所など見たことない私は、一気にその非現実的光景が身近に感じられ、怖くなり立ち止まる。
そんな私にノアは、
「騎士の仕事だ。心配するな。さ、行くぞ」
と声を掛けた。
私はこの少し強面で、横柄な態度の騎士が目の前から居なくなるかもしれないという事実に、恐怖を覚えた。
その夜。私はなかなか寝付けずにやたらと肌触りの良い夜着の上にガウンを羽織り、寝室を出た。
さて……疲れるまでまた床でも磨くか……そう思った時、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
不審者かと思い、身構える。
キョロキョロと周りを見回し武器になる物を探す。私が眠れない時の掃除用にと置いてあったモップを棚から出し、私は構えた。
『コンコン』
まだ窓は叩かれている。バルコニーに出る為の窓だ。……ということは敵はバルコニーに居るという事だ。
私はモップを握り直し、ゆっくりと窓へと向かった。すると、
「おい。開けてくれ」
と言う声が聞こえる。この声は……。
「ノア?」
私は聞き覚えのあるその声の主の名を呼んだ。
「そうだ」
私はモップを握ったまま、カーテンを開く。
そこにはバルコニーに立つノアの姿があった。
いつもの近衛騎士の制服ではなく、上下黒の装束に身を包んだノアは、いつもと少し違って見えた。
私は窓の鍵を外し、ノアを部屋へと招き入れた。
ノアは私が持っていたモップに目をやると、
「それで何するつもりだったんだ?」
と苦笑した。
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