40 / 67
第40話
しおりを挟む
私は宣言通り、自由に過ごす事にした。
もちろん目立つ事はしたくないし、食事のマナーは全く分からないから、部屋で食事を摂るのも変わらないが……
「散歩ですか?」
「ええ。部屋に閉じ籠もってばかりでは体が鈍るし。それに陽の光を浴びないと、骨が弱るのよ?」
私の要望にマギーが嫌な顔をする。しかし、そんな事は無視だ。
「マギーは別に付いてこなくて良いわ。どうせ護衛が付いて来るのでしょう?」
「いいえ。貴女を一人にするわけには参りません」
「だから。護衛が居るのだから、一人ではないわ」
私はそう言い捨てると、扉の方へとツカツカ歩いて行く。
マギーはその前に立ちはだかる様に、私と扉の間に急いで入った。
「勝手は許しません」
「どうして?」
「貴女が偽物だと分かれば、メリッサ様を捜索されるかもしれません。今はまだバレる訳にはいかないのです」
『今はまだ』ね。じゃあいつならいいのかしら?
「王妃って散歩すらしなかったの?」
私か尋ねると、マギーは下唇を噛み締めて俯いた。
「顔に『散歩はしてた』って書いてあるわ。じゃあ、問題ないわね」
私がマギーにそう言うと、彼女は悔しそうな顔で扉の前を譲った。
私は少し勝ち誇った気分で扉を開ける。そこにはノアともう一人の護衛がいた。
「妃陛下、どちらへ?」
「庭を散歩したいの。せっかくのお天気だし」
「畏まりました」
ノアはニヤッと笑うと先に歩き始めた私の後を付いてくる。そして、もう一人の護衛には聞こえない程の小声で、
「庭の場所、分かってるのかよ」
と私の耳元で囁いた。私も同じぐらいの小声で、
「わかるわけないでしょ。先導しなさいよ」
と答えた。ノアは少し笑いを堪える様に肩を震わせながら、黙って私の前を歩き始めた。
「凄い!」
思わず見事な花を咲かせる庭に感嘆の声を漏らす。
花屋の店先よりも立派な花が咲き乱れる庭は、たっぷりの日差しを浴びてキラキラと輝いてみえた。
「ねぇ、これは何て言うお花?」
私は水やりをしていた庭師へと声を掛ける。
私に声を掛けられた庭師はギョッとした表情で私を見ると、急いで被っていた帽子を脱いで、頭を深々と下げた。
「ひ、妃陛下……そ、そちらはダリアでございます」
庭師の声が震えている。緊張しているのかしら?
「へぇ~可愛い花ね。色も鮮やか」
食堂で働いている時は花を愛でるような心の余裕なんて無かった。花を贈ってくれるような男性も居なかったし。
「は、はい!その通りでございます」
庭師は頭を下げたまま、まだ声を震わせていた。
すると、ノアがまた私の耳元で
「顔を上げる許可を。じゃなきゃ、庭師はこのままだ」
と囁いた。
なるほど。顔を上げるにも許可が必要とは。なんとも面倒くさい仕来りだ。
もちろん目立つ事はしたくないし、食事のマナーは全く分からないから、部屋で食事を摂るのも変わらないが……
「散歩ですか?」
「ええ。部屋に閉じ籠もってばかりでは体が鈍るし。それに陽の光を浴びないと、骨が弱るのよ?」
私の要望にマギーが嫌な顔をする。しかし、そんな事は無視だ。
「マギーは別に付いてこなくて良いわ。どうせ護衛が付いて来るのでしょう?」
「いいえ。貴女を一人にするわけには参りません」
「だから。護衛が居るのだから、一人ではないわ」
私はそう言い捨てると、扉の方へとツカツカ歩いて行く。
マギーはその前に立ちはだかる様に、私と扉の間に急いで入った。
「勝手は許しません」
「どうして?」
「貴女が偽物だと分かれば、メリッサ様を捜索されるかもしれません。今はまだバレる訳にはいかないのです」
『今はまだ』ね。じゃあいつならいいのかしら?
「王妃って散歩すらしなかったの?」
私か尋ねると、マギーは下唇を噛み締めて俯いた。
「顔に『散歩はしてた』って書いてあるわ。じゃあ、問題ないわね」
私がマギーにそう言うと、彼女は悔しそうな顔で扉の前を譲った。
私は少し勝ち誇った気分で扉を開ける。そこにはノアともう一人の護衛がいた。
「妃陛下、どちらへ?」
「庭を散歩したいの。せっかくのお天気だし」
「畏まりました」
ノアはニヤッと笑うと先に歩き始めた私の後を付いてくる。そして、もう一人の護衛には聞こえない程の小声で、
「庭の場所、分かってるのかよ」
と私の耳元で囁いた。私も同じぐらいの小声で、
「わかるわけないでしょ。先導しなさいよ」
と答えた。ノアは少し笑いを堪える様に肩を震わせながら、黙って私の前を歩き始めた。
「凄い!」
思わず見事な花を咲かせる庭に感嘆の声を漏らす。
花屋の店先よりも立派な花が咲き乱れる庭は、たっぷりの日差しを浴びてキラキラと輝いてみえた。
「ねぇ、これは何て言うお花?」
私は水やりをしていた庭師へと声を掛ける。
私に声を掛けられた庭師はギョッとした表情で私を見ると、急いで被っていた帽子を脱いで、頭を深々と下げた。
「ひ、妃陛下……そ、そちらはダリアでございます」
庭師の声が震えている。緊張しているのかしら?
「へぇ~可愛い花ね。色も鮮やか」
食堂で働いている時は花を愛でるような心の余裕なんて無かった。花を贈ってくれるような男性も居なかったし。
「は、はい!その通りでございます」
庭師は頭を下げたまま、まだ声を震わせていた。
すると、ノアがまた私の耳元で
「顔を上げる許可を。じゃなきゃ、庭師はこのままだ」
と囁いた。
なるほど。顔を上げるにも許可が必要とは。なんとも面倒くさい仕来りだ。
126
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる