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第37話

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「その時の婚約者は……その事で気を病んでね。私との婚約を解消したいと言ってきた。私もそれを無条件にのんだよ。私もそんな気にはなれなかったからね。それから……私は誰とも結婚する気になれなかった。周りは何度も何度も苦言を呈したよ。王族の血を絶やす気かと。確かに私には兄弟姉妹が居ない。だが、遠縁を探せば男児は居るし、どうにかなると高を括っていたんだ。そんな時に……メリッサに出会った」

「それは……いつ頃?」

正直、陛下は私よりずっと歳上に思える。父親……とは言わないが、十数歳は歳上だろう。

「彼女に初めて会ったのは彼女がまだ幼子の頃だが、その時の事は特に覚えていない。再会したのは七年前。彼女は十四歳……私は三十歳だった。気持ち悪いだろう?十六も歳下の少女に恋心を抱くなど」

何とも言えない。平民ではあまり考えられないが、貴族って政略結婚なんでしょう?それぐらいの年の差ってあり得たりするのでは?そう思ったりもする。

私の沈黙を肯定と取ったのか、

「いいんだ。自分でもそう思った。何度も諦めようと思った。彼女には既に婚約者が居たからな」

「それがベイカー公爵ですね」

「そうだ。前ベイカー公爵は大臣をしていてね。私に息子と……その婚約者を紹介したいと二人を連れて来た」

……それが、運命の出会いだったというならば……皮肉な事だ。

「成長した彼女を一目見て……驚いたよ。カサンドラがそこに居るのかと思った。私と婚約した当時のカサンドラがね。もちろん彼女とカサンドラが別人である事など良く理解している。だが……心惹かれる自分を止められなかった」

「でも……メリッサ様と公爵は……」

「二人はとても仲睦まじい様子だったよ。その頃私は王になり、周りから益々うるさく妃を娶れと言われている時でね。……メリッサの事を口にしたら、周りがあれよあれよという間に彼女と私の婚姻を整えた」

「それって横暴……」

「その通りだな。だが、何としても私に妃を娶らせたい上級貴族の中に、メリッサの父もベイカー前公爵も居た。私が軽々しく口にした事はいとも簡単に叶ってしまったんだ」
陛下はそう言うと自嘲気味に笑った。


「ベイカー公爵は……?」

「あいつは荒れた。父親が大臣だという事にも構わず、私を罵り、いつか殺すと大声で言っていたな。私を悪魔だとそう言った。あいつは父親に領地へと送られ……監禁された」

「監禁?自分の息子を?」

「ベイカー公爵……いや前公爵はそれぐらい平気な男だ。あいつは父親をも恨んでいた。私と同じくらいに」

貴族には人の心がないのだろうか?私は続きを聞くのがすっかり怖くなっていた。
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