33 / 67
第33話
しおりを挟む
黒髪の騎士は素早く後ろから私の首を腕で固定した。
首が締まっている訳ではないが少し苦しい。そして全く動けない。ここまでほんの一瞬の出来事。
咄嗟の事で声すら出せない私の耳元に、
「お前は誰だ?」
と騎士の低い声が聞こえた。
(バレた?!)
私の心臓がドキドキと音を立てる。
しかし答えようにも逞しい腕に捕らえられた私は苦しさと恐怖で声が出せない。
このままでは不味い気がして私は必死に太い腕をパンパンと叩くがびくともしない。
「もう一度訊く。お前は誰だ」
(だから、声が出せないってば!!)と思った私は目の前……いや口の前を覆っているその太い腕に思いっきり噛みついた。服の上からだからダメージは無かっただろうが、騎士は驚いて腕を緩める。これでやっと声が出せる。そう思ったが、また、グッと締められて、騎士が耳元で囁いた。
「大声を出すなよ」
私は必死でコクコクと頷いた。すると、その騎士がゆっくりと腕を緩める。
「私は王妃よ」
震える声を必死で抑える。自分で自分を『王妃』って言う人が居るのかは甚だ疑問だが。
「違うな。お前はあのいけ好かない女じゃない」
やはりこの男はメリッサの事が嫌いなんだと理解した。
私が黙っていると、黒髪の騎士は言った。
「お前とは……何処かで会った様な気がする。抱き上げた時にもそう感じた」
「あんたなんて知らない」
ついいつもの口調で返してしまって、後悔する。
「『あんた』ね。さすがにあの女も俺の事を『あんた』と呼んだ事はないな。あいつを騙るならもう少し勉強していたらどうだ」
「別にどうだっていいでしょ」
「で、お前は誰なんだ?今なら怒らない」
悪いことをした子どもに言ってるんじゃないんだから。それに『今なら怒らないから正直に言え』と言われて正直に言ったら、大体怒られたし。
信用なんて出来るわけない。ここには私の味方は一人も居ない。
「お前は何の為に王妃を騙る?」
「…………」
「だんまりか。なら手段は選ばない。ここでお前を偽物として突き出せば、お前は直ぐ様切り捨てられるだろう」
「……どうせ、死ぬのに?」
私からやっと出た言葉は、私自身の心臓を貫く程に鋭かった。
どうせ死ぬなら……今でも……。
すると黒髪の騎士は私を離し、私の前に回り肩を掴んだ。
「お前は自分の運命を受け入れているのか?」
「運命?人間はいつか死ぬ。それだけ。運命なんて大袈裟なものじゃない」
「……俺の名前はノアだ。お前は?」
「………ニコルよ」
私は自分の名を数日ぶりに口にした。
首が締まっている訳ではないが少し苦しい。そして全く動けない。ここまでほんの一瞬の出来事。
咄嗟の事で声すら出せない私の耳元に、
「お前は誰だ?」
と騎士の低い声が聞こえた。
(バレた?!)
私の心臓がドキドキと音を立てる。
しかし答えようにも逞しい腕に捕らえられた私は苦しさと恐怖で声が出せない。
このままでは不味い気がして私は必死に太い腕をパンパンと叩くがびくともしない。
「もう一度訊く。お前は誰だ」
(だから、声が出せないってば!!)と思った私は目の前……いや口の前を覆っているその太い腕に思いっきり噛みついた。服の上からだからダメージは無かっただろうが、騎士は驚いて腕を緩める。これでやっと声が出せる。そう思ったが、また、グッと締められて、騎士が耳元で囁いた。
「大声を出すなよ」
私は必死でコクコクと頷いた。すると、その騎士がゆっくりと腕を緩める。
「私は王妃よ」
震える声を必死で抑える。自分で自分を『王妃』って言う人が居るのかは甚だ疑問だが。
「違うな。お前はあのいけ好かない女じゃない」
やはりこの男はメリッサの事が嫌いなんだと理解した。
私が黙っていると、黒髪の騎士は言った。
「お前とは……何処かで会った様な気がする。抱き上げた時にもそう感じた」
「あんたなんて知らない」
ついいつもの口調で返してしまって、後悔する。
「『あんた』ね。さすがにあの女も俺の事を『あんた』と呼んだ事はないな。あいつを騙るならもう少し勉強していたらどうだ」
「別にどうだっていいでしょ」
「で、お前は誰なんだ?今なら怒らない」
悪いことをした子どもに言ってるんじゃないんだから。それに『今なら怒らないから正直に言え』と言われて正直に言ったら、大体怒られたし。
信用なんて出来るわけない。ここには私の味方は一人も居ない。
「お前は何の為に王妃を騙る?」
「…………」
「だんまりか。なら手段は選ばない。ここでお前を偽物として突き出せば、お前は直ぐ様切り捨てられるだろう」
「……どうせ、死ぬのに?」
私からやっと出た言葉は、私自身の心臓を貫く程に鋭かった。
どうせ死ぬなら……今でも……。
すると黒髪の騎士は私を離し、私の前に回り肩を掴んだ。
「お前は自分の運命を受け入れているのか?」
「運命?人間はいつか死ぬ。それだけ。運命なんて大袈裟なものじゃない」
「……俺の名前はノアだ。お前は?」
「………ニコルよ」
私は自分の名を数日ぶりに口にした。
135
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる