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第29話
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「お前がここに来た意味を教えてやろう」
陛下はあえて椅子に浅く腰掛け直した。
私も同じ様に掛け直す。少しだけ私達の距離は近くなった。
「今、王国軍と反乱軍が紛争を起こしているのは知っているな」
「もちろんです。街には反乱軍だと言う若者が溢れてる」
「ほう……お前、反乱軍を良く思っていないのか?」
陛下は片方の眉をクイッと上げた。
「良く思っていないというか……。反乱軍だか何だかしらないけど、我が物顔で街を闊歩し、貴重な物資を奪って行きます。迷惑を被っている人も多い。正直……どっちが勝っても私達の暮らしが楽になる事はないって思ってました。何も変わらない。変わるのは……支配者だけです」
「ハハハ!反乱軍も嫌われたものだな。最初は崇高な目的があっただろうに」
陛下は面白そうに笑う。笑い事ではないはずなのだ……だって反乱軍の敵の総大将はこの目の前の男の筈なのだから。
目の前の陛下はひとしきり笑った後で、怖いぐらい真剣な顔つきになった。
「このままでは王国軍は負ける」
私は衝撃を受けた。訓練された王国軍が素人の寄せ集めに負ける?そんな事あるの?
私はゴクリと唾を飲み込んだ。これから私が聞く話は、もしかすると……
「戦いが長くなればなるほど、両軍は疲弊する。物資がなくなれば先に倒れるのは反乱軍の筈だ。食い物が無ければ飢える。飢えれば戦えない」
「ならば……」
勝つのは王国軍では?その言葉を言う前に陛下は続けて、
「しかし、何故か反乱軍は何処からか物資を得ている。隠し持った農民からかもしれないし、うちと敵対している他国からかもしれない」
「そんな事……」
出来るのか?と質問しようとして止めた。反乱軍には商人や、下級貴族も付いている。……あり得ない話じゃない。
「それに、反乱軍はどんどんと規模を増している。王国軍には限りがある。王国軍対国民……そう思えば人数の差は歴然だ」
「この話の終着点はどこですか?」
私は耐えきれずに訊いた。私がここへ……王宮で王妃の身代わりをする事になった経緯の話だった筈だ。私は自分の運命が朧げに見えてきて、結論を急いでしまった。
「フッ……顔色が悪いな。お前の頭の中に答えはあるんじゃないのか?」
……私が想像している理由じゃない事を祈りたい。だけど、陛下の顔を見ると……私のこの悪い予想が当たっているのだと思う。
「私の予想がハズレだと良いなと思っています」
「悪い予感と言うのは概ね当たるものだ。王国軍の負けが意味する事は王政の敗北。王政が廃止になれば不要になるものは何だと思う?」
「王様……」
「その通り。敵の総大将が負けた暁には国民は何を見たがるのだろうな……」
「処刑……ですか?」
「そんなものだ。どんな方法になるのかはその時のお楽しみって事だな」
「どうしてそんな落ち着いているんですか……?」
「さぁ……どうしてかな。メリッサが居ないこの世に未練はない……とでも言っておこう、今は」
ここで初めて、王妃の名前が出た。
陛下はあえて椅子に浅く腰掛け直した。
私も同じ様に掛け直す。少しだけ私達の距離は近くなった。
「今、王国軍と反乱軍が紛争を起こしているのは知っているな」
「もちろんです。街には反乱軍だと言う若者が溢れてる」
「ほう……お前、反乱軍を良く思っていないのか?」
陛下は片方の眉をクイッと上げた。
「良く思っていないというか……。反乱軍だか何だかしらないけど、我が物顔で街を闊歩し、貴重な物資を奪って行きます。迷惑を被っている人も多い。正直……どっちが勝っても私達の暮らしが楽になる事はないって思ってました。何も変わらない。変わるのは……支配者だけです」
「ハハハ!反乱軍も嫌われたものだな。最初は崇高な目的があっただろうに」
陛下は面白そうに笑う。笑い事ではないはずなのだ……だって反乱軍の敵の総大将はこの目の前の男の筈なのだから。
目の前の陛下はひとしきり笑った後で、怖いぐらい真剣な顔つきになった。
「このままでは王国軍は負ける」
私は衝撃を受けた。訓練された王国軍が素人の寄せ集めに負ける?そんな事あるの?
私はゴクリと唾を飲み込んだ。これから私が聞く話は、もしかすると……
「戦いが長くなればなるほど、両軍は疲弊する。物資がなくなれば先に倒れるのは反乱軍の筈だ。食い物が無ければ飢える。飢えれば戦えない」
「ならば……」
勝つのは王国軍では?その言葉を言う前に陛下は続けて、
「しかし、何故か反乱軍は何処からか物資を得ている。隠し持った農民からかもしれないし、うちと敵対している他国からかもしれない」
「そんな事……」
出来るのか?と質問しようとして止めた。反乱軍には商人や、下級貴族も付いている。……あり得ない話じゃない。
「それに、反乱軍はどんどんと規模を増している。王国軍には限りがある。王国軍対国民……そう思えば人数の差は歴然だ」
「この話の終着点はどこですか?」
私は耐えきれずに訊いた。私がここへ……王宮で王妃の身代わりをする事になった経緯の話だった筈だ。私は自分の運命が朧げに見えてきて、結論を急いでしまった。
「フッ……顔色が悪いな。お前の頭の中に答えはあるんじゃないのか?」
……私が想像している理由じゃない事を祈りたい。だけど、陛下の顔を見ると……私のこの悪い予想が当たっているのだと思う。
「私の予想がハズレだと良いなと思っています」
「悪い予感と言うのは概ね当たるものだ。王国軍の負けが意味する事は王政の敗北。王政が廃止になれば不要になるものは何だと思う?」
「王様……」
「その通り。敵の総大将が負けた暁には国民は何を見たがるのだろうな……」
「処刑……ですか?」
「そんなものだ。どんな方法になるのかはその時のお楽しみって事だな」
「どうしてそんな落ち着いているんですか……?」
「さぁ……どうしてかな。メリッサが居ないこの世に未練はない……とでも言っておこう、今は」
ここで初めて、王妃の名前が出た。
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