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第13話

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侍女長は一礼すると、私に顔を向け

「ついて来なさい」
と声を掛けた。

私はコクンと頷いて公爵に背を向けた。扉へ向かう侍女長の後に付いて部屋を出ようとする私に、公爵が声を掛ける。

「そうだ。君の名前はなんというの?」

私は振り返り

「ニコル……です」
そう答えた。
公爵はフッと微笑むと

「そうか……。良い名だ」
と言って、私に背を向けた。また窓の外を見ている様だ。

「さぁ」
侍女長に促された私はその後について部屋から一歩踏み出した。その私の耳に

「もう二度と呼ばれぬ名だが」
という公爵の呟きが届いたが、私には全くその意味が理解出来なかった。



部屋へ着くと侍女長は、

「何かあったらそのベルを鳴らしなさい。勝手に部屋の外へ出歩かない事。食事は直ぐに用意します」
そう言って、私の返事を待たずに部屋を出て行こうとする。私が彼女を呼び止めようとした瞬間、彼女はクルリと振り返り、

「ここに誰か来ても何も喋らないように」
と最後に釘を刺して部屋を出て行った。私は結局何も言えず、その背中を見送った。

「なんなのこれ……」
私はそう独りごちる。
使用人として連れて来られたはずなのに、仕事の話は一切なし。着せられたのはお仕着せではなく、高級なワンピース。
使用人の部屋ではなく、客間の様な場所へと案内され、極めつけは部屋から出るな、何も喋るなとと言う。

私は困惑しながらも、長椅子へとポスンと腰掛けた。そして大きくため息を吐く。
これならまだ女将さんに怒鳴られながら、食堂で働いている方が全然マシだと、今の私はそう考えていた。


部屋を見回す。この部屋だけでもうちの食堂より随分と広い。私達の全世界がこのひと部屋ですっぽりと収まってしまいそうだ。
私はもう一度立ち上がり、部屋の中をウロウロと見て回る。……やっぱりない。
私のあの小さなくたびれたカバンは何処にも見当たらなかった。本当に捨てられてしまったのだろうか……あの中には……。そう考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
しかし何故か私がどうぞ……と返事をする前に、部屋の扉が開かれてしまった。
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