13 / 48
第13話
しおりを挟む
侍女長は一礼すると、私に顔を向け
「ついて来なさい」
と声を掛けた。
私はコクンと頷いて公爵に背を向けた。扉へ向かう侍女長の後に付いて部屋を出ようとする私に、公爵が声を掛ける。
「そうだ。君の名前はなんというの?」
私は振り返り
「ニコル……です」
そう答えた。
公爵はフッと微笑むと
「そうか……。良い名だ」
と言って、私に背を向けた。また窓の外を見ている様だ。
「さぁ」
侍女長に促された私はその後について部屋から一歩踏み出した。その私の耳に
「もう二度と呼ばれぬ名だが」
という公爵の呟きが届いたが、私には全くその意味が理解出来なかった。
部屋へ着くと侍女長は、
「何かあったらそのベルを鳴らしなさい。勝手に部屋の外へ出歩かない事。食事は直ぐに用意します」
そう言って、私の返事を待たずに部屋を出て行こうとする。私が彼女を呼び止めようとした瞬間、彼女はクルリと振り返り、
「ここに誰か来ても何も喋らないように」
と最後に釘を刺して部屋を出て行った。私は結局何も言えず、その背中を見送った。
「なんなのこれ……」
私はそう独りごちる。
使用人として連れて来られたはずなのに、仕事の話は一切なし。着せられたのはお仕着せではなく、高級なワンピース。
使用人の部屋ではなく、客間の様な場所へと案内され、極めつけは部屋から出るな、何も喋るなとと言う。
私は困惑しながらも、長椅子へとポスンと腰掛けた。そして大きくため息を吐く。
これならまだ女将さんに怒鳴られながら、食堂で働いている方が全然マシだと、今の私はそう考えていた。
部屋を見回す。この部屋だけでもうちの食堂より随分と広い。私達の全世界がこのひと部屋ですっぽりと収まってしまいそうだ。
私はもう一度立ち上がり、部屋の中をウロウロと見て回る。……やっぱりない。
私のあの小さなくたびれたカバンは何処にも見当たらなかった。本当に捨てられてしまったのだろうか……あの中には……。そう考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
しかし何故か私がどうぞ……と返事をする前に、部屋の扉が開かれてしまった。
「ついて来なさい」
と声を掛けた。
私はコクンと頷いて公爵に背を向けた。扉へ向かう侍女長の後に付いて部屋を出ようとする私に、公爵が声を掛ける。
「そうだ。君の名前はなんというの?」
私は振り返り
「ニコル……です」
そう答えた。
公爵はフッと微笑むと
「そうか……。良い名だ」
と言って、私に背を向けた。また窓の外を見ている様だ。
「さぁ」
侍女長に促された私はその後について部屋から一歩踏み出した。その私の耳に
「もう二度と呼ばれぬ名だが」
という公爵の呟きが届いたが、私には全くその意味が理解出来なかった。
部屋へ着くと侍女長は、
「何かあったらそのベルを鳴らしなさい。勝手に部屋の外へ出歩かない事。食事は直ぐに用意します」
そう言って、私の返事を待たずに部屋を出て行こうとする。私が彼女を呼び止めようとした瞬間、彼女はクルリと振り返り、
「ここに誰か来ても何も喋らないように」
と最後に釘を刺して部屋を出て行った。私は結局何も言えず、その背中を見送った。
「なんなのこれ……」
私はそう独りごちる。
使用人として連れて来られたはずなのに、仕事の話は一切なし。着せられたのはお仕着せではなく、高級なワンピース。
使用人の部屋ではなく、客間の様な場所へと案内され、極めつけは部屋から出るな、何も喋るなとと言う。
私は困惑しながらも、長椅子へとポスンと腰掛けた。そして大きくため息を吐く。
これならまだ女将さんに怒鳴られながら、食堂で働いている方が全然マシだと、今の私はそう考えていた。
部屋を見回す。この部屋だけでもうちの食堂より随分と広い。私達の全世界がこのひと部屋ですっぽりと収まってしまいそうだ。
私はもう一度立ち上がり、部屋の中をウロウロと見て回る。……やっぱりない。
私のあの小さなくたびれたカバンは何処にも見当たらなかった。本当に捨てられてしまったのだろうか……あの中には……。そう考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
しかし何故か私がどうぞ……と返事をする前に、部屋の扉が開かれてしまった。
112
お気に入りに追加
544
あなたにおすすめの小説
将来の義理の娘に夫を寝取られた
無味無臭(不定期更新)
恋愛
死んだはずの私は、過去に戻ったらしい。
伯爵家の一人娘として、15歳で公爵家に嫁いだ。
優しい夫と可愛い息子に恵まれた。
そんな息子も伯爵家の令嬢と結婚したので私達夫婦は隠居することにした。
しかし幸せな隠居生活は突然終わりを告げた。
離れていても君を守りたい
jun
恋愛
前世の俺は最愛の妻を裏切り、その妻をズタズタに傷付けてしまった。不倫相手と再婚したが、家族からも周りからも軽蔑の視線を向けられ続けた。
死ぬ直前まで後悔し続けた俺の最後の言葉は「フローラに会いたい」と呟いて死んだ。
次に目が覚めた時、俺は第二王子になっていた。
今世の“アルトゥール・ガイエ”の中身は誰?
そして一番会いたかったフローラの側にはやっぱり“アルトゥール”がいた。
*子供を亡くす表現があります。
性行為の描写も軽くありますので気になる方は読み飛ばして下さい。
投稿は10時、初回のみ22時、2話投稿です。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
コミカライズ原作 わたしは知っている
キムラましゅろう
恋愛
わたしは知っている。
夫にわたしより大切に想っている人がいる事を。
だってわたしは見てしまったから。
夫が昔から想っているあの人と抱きしめ合っているところを。
だからわたしは
一日も早く、夫を解放してあげなければならない。
数話で完結予定の短い話です。
設定等、細かな事は考えていないゆる設定です。
性的描写はないですが、それを連想させる表現やワードは出てきます。
妊娠、出産に関わるワードと表現も出てきます。要注意です。
苦手な方はご遠慮くださいませ。
小説家になろうさんの方でも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる