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第9話
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店に戻ると女将さんは既に金を受け取っていたようで、さっきとは打って変わって、ご機嫌だった。結局、金は欲しかった訳だ。
「ニコル、粗相のないようにね!」
と女将は笑顔で私を見送った。私はそのケビンとかいう男性の後に付いて、馬車に乗り込もうとする。すると、
「ニコ!!元気で!!会いに行くから!」
とアダンが店の外まで出てきてくれた。
私に怒っていないの?そう思うと涙が出そうになる。私はそれをグッと堪えて、
「アダンも元気で!!」
と笑顔で手を振った。
「さっさと乗って下さい」
先に馬車に乗り込んだケビンに不機嫌そうにそう言われて、私は小さなカバンを胸に抱えて、急いで馬車へと乗り込んだ。
さすが公爵家の馬車と言うべきか。座席はフカフカで、車内も広かった。
私は身の置所の無さを感じながら、ケビンの前にちょこんと腰掛けた。
すると、ケビンは顔を顰めて
「チッ。どうしてこんな女と一緒の馬車に乗らなきゃならんのだ」
と私から目を背けた。
先ほどとは違い、全く歓迎されていないかの様な物言いに私は戸惑った。
そしてケビンは徐ろに、まるで私と同じ空気を吸っているのが嫌だと言わんばかりに、馬車の窓を開けた。馬が巻き上げる砂埃が窓から入り込んで来る。それでもケビンは公爵の屋敷に着くまで窓を閉める事はなかった。
「さっさと降りろ」
屋敷に着いて、馬車の扉が御者によって開かれた。ケビンは指図する様に、顎でシャクって私にそう告げる。
私はケビンの豹変した態度に戸惑いながらも、馬車を降りようと腰を上げた。手を差し出した御者に、
「あ~、そんな事はしなくて良い。こいつは使用人だ」
とケビンは言い捨てた。
何なんだ、この態度は?!
そう思うが声すら出せない。何故なら、そのお屋敷の豪華さに私は圧倒されてそれどころではなくなっていた。
「呆けてないで、さっさと歩け」
大きな屋敷を見上げ立ち止まっていた私の肩を、後ろから乱暴に押された。私はその勢いに二、三歩トトッとつんのめる様に前に出た。
どうしてこの様にぞんざいな扱いを受けなければならないのか、私が何か粗相をしてしまったのか、全く分からないまま私は急かされる様に屋敷の方へと向かった。
屋敷に一歩足を踏み入れる。外観の立派さに負けず劣らず、内装も豪華で、そこここに飾られた調度品は値段はわからないまでも、高価である事は間違いないだろうと思われた。
私の姿を見た使用人達は不思議そうだ。すると奥から此処にいるメイド達より一回り程歳上だと思われる女性が私の前に現れた。
背筋をピンと伸ばしたその女性は私をチラリと見た後、
「これが例の?」
と私の後ろにいたケビンが
「そうだ。直ぐに湯浴みさせて着替えさせろ」
と言った後。私が手に持っていた小さなカバンをひったくる様に取ると、
「これは捨てておけ」
と近くに居たメイドにポンと投げて寄越した。
「な!!どうして捨てるんですか?!私の物ですよ!」
私はその言葉に弾かれた様に反射的に抗議した。
「ニコル、粗相のないようにね!」
と女将は笑顔で私を見送った。私はそのケビンとかいう男性の後に付いて、馬車に乗り込もうとする。すると、
「ニコ!!元気で!!会いに行くから!」
とアダンが店の外まで出てきてくれた。
私に怒っていないの?そう思うと涙が出そうになる。私はそれをグッと堪えて、
「アダンも元気で!!」
と笑顔で手を振った。
「さっさと乗って下さい」
先に馬車に乗り込んだケビンに不機嫌そうにそう言われて、私は小さなカバンを胸に抱えて、急いで馬車へと乗り込んだ。
さすが公爵家の馬車と言うべきか。座席はフカフカで、車内も広かった。
私は身の置所の無さを感じながら、ケビンの前にちょこんと腰掛けた。
すると、ケビンは顔を顰めて
「チッ。どうしてこんな女と一緒の馬車に乗らなきゃならんのだ」
と私から目を背けた。
先ほどとは違い、全く歓迎されていないかの様な物言いに私は戸惑った。
そしてケビンは徐ろに、まるで私と同じ空気を吸っているのが嫌だと言わんばかりに、馬車の窓を開けた。馬が巻き上げる砂埃が窓から入り込んで来る。それでもケビンは公爵の屋敷に着くまで窓を閉める事はなかった。
「さっさと降りろ」
屋敷に着いて、馬車の扉が御者によって開かれた。ケビンは指図する様に、顎でシャクって私にそう告げる。
私はケビンの豹変した態度に戸惑いながらも、馬車を降りようと腰を上げた。手を差し出した御者に、
「あ~、そんな事はしなくて良い。こいつは使用人だ」
とケビンは言い捨てた。
何なんだ、この態度は?!
そう思うが声すら出せない。何故なら、そのお屋敷の豪華さに私は圧倒されてそれどころではなくなっていた。
「呆けてないで、さっさと歩け」
大きな屋敷を見上げ立ち止まっていた私の肩を、後ろから乱暴に押された。私はその勢いに二、三歩トトッとつんのめる様に前に出た。
どうしてこの様にぞんざいな扱いを受けなければならないのか、私が何か粗相をしてしまったのか、全く分からないまま私は急かされる様に屋敷の方へと向かった。
屋敷に一歩足を踏み入れる。外観の立派さに負けず劣らず、内装も豪華で、そこここに飾られた調度品は値段はわからないまでも、高価である事は間違いないだろうと思われた。
私の姿を見た使用人達は不思議そうだ。すると奥から此処にいるメイド達より一回り程歳上だと思われる女性が私の前に現れた。
背筋をピンと伸ばしたその女性は私をチラリと見た後、
「これが例の?」
と私の後ろにいたケビンが
「そうだ。直ぐに湯浴みさせて着替えさせろ」
と言った後。私が手に持っていた小さなカバンをひったくる様に取ると、
「これは捨てておけ」
と近くに居たメイドにポンと投げて寄越した。
「な!!どうして捨てるんですか?!私の物ですよ!」
私はその言葉に弾かれた様に反射的に抗議した。
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