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scene・31
しおりを挟む「あくまでも私の出世の為よ。澄海がここに住むようになってもう……10ヶ月?
今では配信に人も集まってくれてるし、オリジナルの歌は収益化出来てるでしょう?
ほら、私に生活費払うって言ってきた事あったじゃない?あの時私が言ったこと覚えてる?『私に払わなくて良いからその分貯金して、自立に向けて頑張って!』って私言ったでしょう?
元々の目的って……貴方を自立させる為よ?澄海がグループに入るか入らないかは自由にして良いよ。だって私の人生じゃない。澄海の人生だもん。決めるのは貴方よ」
と私が言えば、澄海は悲しそうに、
「でも……」
と言ったっきり黙ってしまった。
「ねぇ。ずっと一緒に暮らす事なんて出来ない。それは最初からわかってたでしょう?」
と私が伺うように尋ねても、澄海は『うん』とは言わなかった。
「とにかく!突然で申し訳ないけど、引っ越し先を探してくれる?私ももちろん手伝うから」
と私が明るく言えば、澄海は、
「どうしても?どうしても出ていかなきゃダメ?」
と泣きそうな顔をした。
私はその顔を何も言わずに見つめる。
澄海は私のその表情から、自分の欲しい答えが貰えない事を悟ると、
「…わかった。急いで探すよ。大丈夫、全部自分1人で出来るから。お姉さんは自分の準備もあるでしょ?」
と言ってダイニングを出て行った。
……『お姉さん』か。久しぶりに呼ばれたな。もう名前では呼んでくれないのかもしれない。
それが彼からの絶縁状のように感じられた。……勝手なものね、自分から手を離したくせに。私も。
でも、これで良かったんだ。これで澄海は心置きなくグループ活動をする事が出来るだろう。
自分でもさっき言ったばかりじゃないか、
『ずっと一緒に暮らす事なんて出来ない』って。私の方こそ、わかっていたでしょう?
自分が出した答えに自分で傷つくのはお門違いだ。
そこからの1ヶ月はどうやって過ごしたのかよく覚えていない。
澄海は忙しそうにしていたし、私も急に受けた海外赴任の準備に大あらわだった。上司には良く決断してくれたと喜ばれたが。
食事を一緒に取ることも無くなったし、澄海が家に帰って来る事も日に日に少なくなっていった。
私の家ってこんなに広かったっけ?
母が亡くなった後にも同じじように感じたっけ……。
慣れたつもりだったのに。
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