堅物女と柔らかな謳うたい

初瀬 叶

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scene・25

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会社から少し先の広場に、数台のキッチンカーが停まっている。
ここら辺にある会社のOLやサラリーマンがベンチで休んでいるのが見える。

少し出遅れたせいで、ベンチが空いていない。私がキョロキョロしていると、昼食を早々に食べ終わったであろうサラリーマンが足早に立ち去った。
私はそれを見逃さずに、

「あそこに座りましょうか?」
と萌と名乗った女の子に指を差しながら声をかけた。

すぐそばのキッチンカーではバインミーを売っている様だ。

「食べる?私は買ってくるけど」
と私についてきた彼女に振り返りながら言えば、

「いえ。私はいらないです」
と固い表情で彼女は言って、そのベンチに1人座った。

私は自分の分のバインミーと2人分のアイスコーヒーを買って急いでベンチに戻る。
お昼休みがどんどんと削られていく。急がなければ。

私は彼女にコップを渡して、隣に腰かけた。彼女は軽く私に会釈しながら、ありがとうございますとお礼を言った。

「申し訳ないけど、私は食べるわね」
と私が大きな口を開けて、バインミーにかぶりつこうとした瞬間、

「お願いです。澄海の邪魔、しないで下さい!」
と彼女は勢い良く頭を下げた。

私はその声に驚いて、口と目を大きく開いたまま彼女を見る。
ツインテールをした彼女は小柄なことも相まって、とても幼く見えた。

私は食べるタイミングを失い、

「えっと……どういう事?」
と聞き返す。全く意味がわからない。邪魔?私が?

「澄海、めちゃくちゃチャンスなんです。まさか、断るなんて思ってなかった。それもこれも、あなたが居るからです!」
萌と名乗るその女の子は、少し怒りの籠った口調で私にそう言った。

しかし、私には全く話が見えてこない。

「ごめんなさい、全然話がわからないんだけど。澄海が…何を断ったって言うの?」
と私が困惑して問えば、

「え?知らないんですか?澄海……あなたに言ってないの?」
と彼女も少し困惑したように私を見た。そして、何故かちょっぴり勝ち誇ったように、

「ふーん……大切な事、話したりする仲じゃないんだ」
と言った。

……何となく馬鹿にされているように感じるのは、私の勘違いなのだろうか?
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