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scene・23
しおりを挟む和樹はその後何も言わず…いや言えずにこの家を出て行った。
その背中に掛ける言葉など私にはなかったのだが、澄海は、
「二度と来んなよ」
と追い討ちを掛ける様な物言いで和樹に言った。
和樹が出ていくのを2人で見送った後、澄海は、
「なんで俺の居ない時に、家に上げてんの?」
と不機嫌全開で私に言った。
「仕方ないでしょう?家の前で大声で話されても迷惑だし、何度も来られても鬱陶しいと思ったから」
と私が軽く言えば、
「乃愛さん、危機感なさすぎ」
と不貞腐れたように澄海は言ったかと思うと、直ぐに自分の部屋へと引っ込んで行った。
あらら……どうも今日はご機嫌ななめらしい。
おそらく和樹の事だけでない様な気がするのは、同居人として彼の心の機微に気付くようになったからだろう。彼は、分かりやすい。
まぁ、無理に話を聞き出すのは得策ではない。私は彼の本能に訴える事にした。
今日の夕飯を澄海の好きなロールキャベツにする。……生憎匂いが充満するタイプの料理ではないが、お腹が空いていたら、顔を見せるのではないかと私は踏んでいた。
もし部屋から出てこないなら、残りは明日また食べれば良いし。
ガチャ…(ほら、来た。)
彼の部屋のドアが開いた音がした。
そっとダイニングに顔を出した澄海に、私は鍋の方に顔を向けたまま、
「今日、夕飯も外で食べて来るかと思ってた」
と私が声を掛ける。すると、
「……帰って来ない方が良かったって事?」
と不機嫌そうな声で答えが返ってくる。
…うーん。今日はちょっと根深そう。
「そんな事言ってないよ。珍しく外出してたからゆっくりしてくるかと思ったってだけ。……助かったよ、帰って来てくれて」
と私が言えば、
「…ほんとに?」
と少し探るような声色で私に訊ねた。
「本当。ねぇ、夕飯、ロールキャベツ作ったんだけど、一緒に食べる?」
と私が澄海に振り返る。
彼は私が料理を作っていると、いつも後ろをウロチョロしているのは分かっていた。
「………食べる」
少しまだ不貞腐れた様子ながら、澄海は慣れた手つきでカトラリーを用意し始めた。
私はその様子に澄海に見えないように、そっと微笑んだ。
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