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scene・20
しおりを挟む私にそう言われても、和樹が立ち上がる事はない。
私は思わず溜め息をついた。
それを聞いた和樹の肩はピクリと動く。
私が不機嫌になると溜め息を付く癖は、彼と付き合っていた頃から変わっていなかった。
和樹はポツリと、
「俺の子どもじゃなかったんだ……」
と呟いた。
その言葉を聞いても、咄嗟に反応出来ない……何の事?
黙っている私に和樹は続けて、
「俺…離婚したんだ。結婚して1年が過ぎた頃かな?美咲……いや、妻の浮気が発覚した」
そう言えば離婚したとあの日…水族館の帰り道で出会った和樹はそう言っていた。
でも……だから何?
「ふーん」
とおざなりな返事をする私に和樹はチラリと視線を移したが直ぐに目をそらした。
「その浮気相手……いや、あいつにとっては本命か。結婚前からその男とあいつは付き合ってた。逆に俺が浮気相手だったんだ。そんな中、子どもが出来た。俺は仕事も定職についてるし、結婚相手としては俺の方が将来性があったんだろう。…あいつは俺の子どもだと言って俺に結婚を迫った」
……何が言いたいのかしら?突っ込み所が満載なんだけど、今、口を挟むより纏めて突っ込んだ方が良いかな。
私が黙っているので、和樹は話を続ける事にしたようだ。
「結局、男とあいつはずっと続いてた。あいつの浮気に勘づいて問い詰めたら、向こうの方が好きだったって言われたよ。子どももきっと向こうの子だと言われて……DNA鑑定をする事にした。……俺の子どもじゃなかったよ。ふっ……俺は騙されてたんだ」
少し鼻で笑う和樹にイラッとする。そろそろ口を挟んでも良い?
「俺は直ぐに離婚し……」
私はこれ以上聞いていられないと、話の途中だが、口を挟む事にした。
かつて愛した男がこんなくだらない男だったとは……私は本当に見る目がない。
「ねぇ。それを今、私に言ってどうなるの?私に何て言って欲しいの?『え?!酷い!最低ね!可哀想!』って私が言えば満足するの?」
と私が言えば、和樹は酷く傷ついた様な顔をした。…被害者面しないで。
言葉を失くした和樹を無視して私は続ける。
「例えその子が貴方の子どもではなかったとしても私には関係ないし、貴方が私を裏切っていた事実は変わらない。全部自分が仕出かした事が原因でしょう?今、それを私に言ってどうしたいの?」
「た、確かに…俺はあの時浮気した。……魔が差したんだ。あの時、愛していたのは乃愛だった。いや…あの時も、今も……だ」
と和樹は私の目を真っ直ぐに見る。
………こいつ、私を馬鹿にしてるの?
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