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scene・17

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バスの中で、澄海は無言だった。
私が話しかけても『うん』とか『そうだね』とかしか言わない。
何だか気まずい。

家の近くのバス停でバスを降りる。

「あ!カレー作るのに、人参がないや!ちょっとそこのスーパーに寄って良い?」

「うん」

バスを降りても『うん』だけかぁ…。

「家に先に帰ってても良いよ?私買って帰るし」
と私が言えば澄海は、首を横に大きく振って、

「一緒に行く」
と小さな声で言った。


スーパーへ向かって2人で歩いていると、

「さっきの人、誰?」
と澄海が訊ねてきた。

「元カレ」
私は素直に答える。別に隠す程のものではない。
私だって32歳。恋の1つや2つ経験があったって不思議じゃないだろう。

「いつ頃付き合ってたの?」

「うーん…5年前まで?」

「どれぐらい付き合ってたの?」

「えっと…3年半?ぐらいかな」

『うん』と『そうだね』が終わったと思ったら、今度は質問責めだ。

「何で別れたの?」
…ほらきた。この質問。これにも答えなきゃダメ…だよなぁ。うっ…古傷が痛む。

「向こうが浮気して…浮気相手に赤ちゃんが出来たの」
って言うか、向こうの女にしてみれば、私が浮気相手だったのかもなぁ…今更ながらにそう考えると落ち込んできた。
未練はないが、そう思うと自分が哀れに思える。

「…………最低」
低く唸るように言う澄海に、

「浮気未遂で彼女に捨てられた人が何言ってるの?」
と私は苦笑する。それを聞いて澄海は、

「そ、それとこれとは話が別……じゃないか…」
と自分で自分に答えを出していた。

「もう済んだ事よ。今日、偶然会うまで彼の事なんて忘れてたもん」

…まぁ…これは嘘か。この前、舞と話したばかりだ。噂をすれば…ってやつかな?

「あの人…離婚したって…」

…そう。最後に、和樹はそう言った。澄海にもそう聞こえたって事は、私の聞き間違いじゃないらしい。
ーでも、だから何だと言うのか。

「何かそんな事言ってたね。でも、私にはもう関係ないから。さ、買い物済ませてパッと帰ろ!今日も配信、するんでしょう?」
と私は空気を変える様にそう言うと、買い物カゴを手にスーパーの自動ドアを通る。

後ろから、

「俺が持つよ」
とカゴを私の手から奪う様に澄海が取る。

何だか機嫌が悪いなぁ…そう思うが私はその理由に変な期待をしないよう、それ以上考える事を止めた。
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