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第115話
しおりを挟む夕方、王宮から帰って来た旦那様はとても不機嫌だった。
「おとうさま~」
大好きな父親に飛び付き、抱き上げて貰ったレオンはご機嫌だ。
「今日もお利口さんにしていたか?」
流石に子どもには不機嫌さを隠した旦那様はレオンの目を見てそう訊ねた。
旦那様の前髪はもう彼の美しい瞳を隠してはいない。
レオンは父親の宝石のような瞳を見つめると、
「みて、みて~」
と自分の手から薄紫色の蝶を出してみせた。
昼間、マーガレットが嬉しそうに目で追っていたあの蝶だ。
得意そうにしている息子に、
「凄いな。随分と上達したじゃないか」
と旦那様は嬉しそうに微笑んでみせた。
レオンは杖を使わずとも魔法を使うことが出来る。
実は旦那様にも出来るのだが、杖を使わないと魔力量が安定しないらしい。
しかし、レオンは幼い頃から、それを安定させる事が出来ていた。
レオンが生まれた時、その魔力量から、
『レオンは僕を超える魔法使いになる。幼い頃から、十分に訓練させないと大変な事になるかもしれない』
と言って、旦那様自らレオンを特訓していたお陰で、レオンの魔法はメキメキと上達していった。
家族皆で夕食を食べ、子ども2人をメグと共に湯浴みをさせる。
マーガレットは大人しく洗わせてくれるのだが、レオンは直ぐに水遊びを始めてしまうので、いつもかなりの時間を有してしまうのだ。
自分の湯浴みまでの全てを終え、夫婦の寝室へ行く時には、私はすっかり疲労困憊だ。
メグやローラの手を借りながらだが、私も積極的に子育てしたいというワガママを叶えて貰っているとは言え、幼い子どもの世話をするというのは、それこそ体力勝負だと思う。
普通、平民は乳母を雇わずに母親だけでそれをこなしているのだ。本当に頭が下がる。
「今日もレオンに手を焼いたようだな」
と私の顔を見た旦那様は苦笑しながら言った。
「はい。今日は水を魚のような型にしたり、噴水のように巻き上げたりと…まぁ…いつもの通りです。マーガレットが喜ぶものだから、余計に張り切ってしまって」
と私が言えば、
「レオンはマーガレットの事が大好きだからな」
と旦那様は微笑んだ。
マーガレットが生まれた時、1番喜んだのは間違いなくレオンだった。
マーガレットが可愛くて仕方ないらしく、マーガレットが喜ぶ事なら何でもしてしまう。…困ったお兄ちゃんだ。
さて、私は今から今日、旦那様が帰宅した時に不機嫌だった理由を訊ねなければならない。
どんなお話が飛び出すのやら…。
きっと…あまり良くない話なのだろう。
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