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第106話
しおりを挟む夜になり、私は旦那様と寝室に居た。
「改めてありがとうございました。
お陰で私も、…お腹の子も無事に帰ってくる事が出来ました」
と私が礼を言えば、
「アメリアが無事で何よりだ。怖い思いをさせた。全ては僕の責任だ。…すまなかった」
と旦那様は頭を下げた。
「そんな!旦那様の責任ではありません!」
と慌てる私に、
「ずっと…僕には家族が居なかったから、自分にそんな弱点があると思いもよらなかった。
そして…そこを突いてくる卑怯者がいる事にも頭が回らなかった僕のミスだ」
と旦那様は静かに言った。
私は不安になる。…もしかすると私の存在は旦那様の邪魔になっているのか…と。
私が黙っていると、旦那様は続けて、
「アメリアに質問された事に答えるよ。
子どもが出来た事をどう思ったか…だったな。正直に言うよ。
子どもが出来たと聞いた時に、最初に感じた事は『怖い』という気持ちだ」
と静かに言った。
「怖い…ですか?」
「あぁ。子どもの瞳が…もし僕と同じだったら?そう思うと恐ろしかった。
僕はずっと…この瞳を隠して生きてきた。それはもう別に良いんだ。慣れたから。
だが、同じような気持ちを子どもにも味わわせるのかと…不安になった。子どもの瞳の色は生まれてくるまで分からない。だから今もずっと…不安なままだ」
と旦那様は少し苦しそうな表情を浮かべると、
「それに…もう1つ恐ろしいと思っている事がある」
と続けた。
「もう1つ…?」
と私が言えば、
「そうだ。僕の母親は…産後の肥立ちが悪くて、僕を生んだ後、寝込む事が多くなった。実際…それが元で早く亡くなったしな。
…母は僕が悪魔で、悪魔を生んだからこうなったんだと言っていたが、周りの者も…父も、母は元々体が丈夫ではなかったから、そのせいだと僕を慰めてくれた。
だが、どちらにしろ僕を生んだせいで早死にした事は、間違いない。
子どもを生むのは命懸けだ。もしかすると、そのせいで、アメリアを失うのではないかと…そう考えると怖くなったんだ」
と旦那様はますます苦しそうな表情を浮かべた。
『だから素直に喜べなかった』と言った旦那様に、私は何と声を掛ければ良いのか分からなくなってしまった。
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