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第105話
しおりを挟む「恐ろしい事だ。お腹の子もアメリア様も無事だったから良かったものの…」
とモーリス先生は言葉を切った。
「ネイサンは旦那様を恨んでいるようでした」
と私が言えば、
「ネイサンは…隣国の侯爵家、ブラック侯爵の息子でした。
ウィリアム様が子どもの頃、バルト家とブラック家には交流があったんです。お互い魔法使いとしてかなり実力のある家でしたからね。
…しかし…ブラック家は禁術に手を出してしまった…それがブラック家の…ネイサンの転落の始まりでした」
「禁術?」
私が訊ねるとモーリス先生は、
「ええ。魔法で人の精神を操る事は禁止されています。禁術は他にもありますが、ブラック家はその中の1つである人の精神に作用する魔法を使って、自分達の立場を優位にしていったのです。
それを暴いたのはまだ…10歳だったウィリアム様です。当然ブラック家は取り潰し。
一家は全員国家の監視下に置かれ、細々と暮らしていました」
と答えた。
「ネイサンは…」
「数年はそうやって暮らしていましたが、ある日、その監視下から逃れ、行方をくらませました。それから10年近くたって…ブラック・バンディットと名乗る盗賊の頭に」
「そう…それで旦那様を恨んでいたのね」
私が呟くと、
「はっきり言えば逆恨みですけどね。
禁術を使ったのはネイサンの父であるブラック侯爵だ。ウィリアム様は正しい事をしただけに他なりません」
「ネイサンの頬の傷は旦那様が付けた物だと…」
「ネイサンに聞いたのですね。
そうです。それも、ブラック家の悪事を暴いた時、ネイサンが苦し紛れにウィリアム様へ魔法を放ちました。
それをウィリアム様はネイサン自身に返しただけです。…全てが自業自得という訳です」
なるほど。逆恨みであったかもしれないが、ネイサンの中には積年の恨みがあったという事か。
…殺そうと考えてもおかしくはないのだろう。彼の中では。
「そうだったのね。…ネイサンは今、どうしてるのかしら?」
私はふと疑問を口にした。
すると、部屋の扉が開き、
「ネイサンは魔法使い専用の牢の中だ。
明日から取り調べが始まるが、ライオネルに全てを任せてきた」
と旦那様が言いながら部屋へと入って来た。
「旦那様、おかえりなさいませ」
と私は長椅子から立ち上がろうとするも、
「良い。座ってろ」
と旦那様は言うと私の向かい側に腰かけて、
「モーリス、アメリアの具合はどうだ?」
と先生に訊ねた。
「少し脱水を起こしてますが、特に問題はありませんよ。あとは少し寝不足なようですので、ゆっくり休んでいただければ元気になります。
アメリア様にもお腹のお子さまにも問題はございません」
とモーリス先生は頷きながら答えた。
旦那様はその言葉を聞いて、
「そうか。ならば、今日はゆっくり休むと良い。今夜はここで休むとしよう」
と頷いた。
「旦那様は…領地へお帰りになるのですか?それならば、私も…」
と私が言えば、
「いや、僕も今日はここに残る。アメリアは心配せずゆっくり休め。モーリス、診察ありがとう」
と旦那様は私に答えた後、モーリス先生に礼を言った。
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