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第97話

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「ふぅ…」

「奥様、どうかされました?」

「ん?ううん?何でもないわ。
もう少ししたら、庭を散歩したり出来るようになるわよね?」

あれから2ヶ月が経過していた。

月の物は来なかったし、悪阻もなかなか酷く、私の妊娠は確定した。

私としては、最近は悪阻が治まって随分と元気になったのだが、心配性の旦那様から、動き回る事を禁止されており、屋敷の中をゆっくり歩き回るぐらいしか許可されていなかった。

もう安定期に入るので、そろそろ庭を散歩したり、外出したりしたい。

モーリス先生からは許可を貰っているのに、旦那様が厳しくて、私はあまり自由に動けていなかった。

「ええ。明後日のモーリス先生の診察でお墨付きを貰ったら許可するとお坊っちゃまが言ってましたしね」
とローラが微笑む。

「モーリス先生の許可はとっくに貰ってるのよ?」
と私が口を尖らせると、

「まぁ、まぁ。お坊っちゃまも奥様が心配なんですよ」
とローラに宥められた。

こうしてローラと普通に会話している私の心はどこか重たい。

妊娠の可能性を告げた時の旦那様の顔を思い出すと、どうしても心が晴れないのだ。

あの時の旦那様は…間違いなく戸惑っていた。
少なくとも嬉しい!という感情は見てとれなかった。

私の体を心配してくれているのは、今のこの過保護過ぎる扱いを見ても理解しているのだが…もしかしたら…旦那様は子どもが欲しくないのかもしれない。

でも、旦那様の口から『子どもなんて欲しくなかった』と言われるのが怖くて、確かめる事は出来ていない。

「ふぅ…」
こうして、ついため息が増える程、私は旦那様の気持ちを考えて、暗くなってしまうのだった。



モーリス先生の診察で、お墨付きを貰った私は、夜。

「旦那様。モーリス先生も太鼓判を押して下さいました。明日から、庭へ出てもよろしいでしょうか?」

「ん?本当にもう体調は大丈夫なんだな?ならば…あまり無理をしないように。
疲れたならすぐに休むんだ。わかったか?」

「まだお腹もそんなに出ていませんし、大丈夫ですよ」
と私が返事をすると、

「あぁ。わかってはいるんだがな。
まぁ…部屋へ閉じ籠ってばかりも体に毒だとモーリスに言われた。
……体調が万全なら…少しアメリアの元家族の話をしようか」
と寝台に腰掛けている私の横に旦那様は座った。

私が何度か訊ねても答えを濁されていた。
彼らがどうなったのか…知りたかったが、旦那様はなかなか教えてくれなかったのだ。

「まず。ワーカー伯爵家は随分と借金を抱えていた。これは、アメリアと縁を断ちきらせる為に調べた段階でわかっていた事だ。
その借金はうちで全部買い取った。つまりワーカー伯爵家はバルト公爵家に借金をした形になった訳だ。
実際…僕がその事をワーカー伯爵家に告げに言った時、あの馬鹿どもは何故か喜んだよ」

「喜んだ?何故なんでしょう?」

「どうも、僕が全ての借金を肩代わりして支払ってくれたと思ったらしい…救いようのない阿保だ」

元父の考えそうな事だ。…ある意味楽天的な人なのかもしれない。
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