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第90話

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私は一瞬ライラックの姿を確認するために振り向いた。

…やっぱりライラックだ。…ちなみにあのデイドレスにも見覚えがある。

私はライラックに見つからない為にも急いでバラ園へと向かうべく顔を前に向けた瞬間、


「アメリアちゃん!」

と私の行く手を遮る影。……殿下だ…。
くそっ!ライラックに気を取られている間に、前に回り込まれていた。

「デ、デイブ王太子殿下。ご機嫌麗しく存じます。あ、私、用を…」
思い出して…と言おうとする私の言葉を遮るように、

「バラ園に行くの?僕、ここに詳しいんだ。案内するよ」
と私の手を引いて行こうとするのを、私はやんわりとほどいた。

「あ、少し気分が悪くて…失礼は承知なのですが、夫人に挨拶をして帰ろうかと…」

「え?!気分が悪いの?それは大変だ。屋敷の中で少し休むと良い。僕が案内しよう」

いや、いや、いや、待て、待て、待て。

2人でここを離れる方が不味いだろう。

「そんな!殿下のお手を煩わせるような事、出来ません。私1人で大丈夫ですから、
殿下は他の方のテーブルへどうぞ。皆様お待ちですわ」

ほら、独身令嬢達の目が爛々と輝いているじゃないですか。あっちに行って下さいよ~。

ここで、殿下と揉めて(?)いたのが悪かった…と後悔しても後の祭りだ。


「ちょっと!どうしてあんたが此処に居るのよ!」

…ライラック登場…。『前門の虎、後門の狼』って今のこういう状況を言うのかしら?

「ど、どうしてと言われましても…」
と私が言おうと振り返ると、私の目の前には男性の背中…殿下…動きが早くないですか?

「君は誰だ?アメリア嬢に失礼な物言いだな。名を名乗れ」

ライラックは目の前の殿下に唖然としたかと思うと、

「まぁ殿下!私の事、お忘れになっちゃったんですか?ライラックです。ライラック・ワーカー。ワーカー伯爵の次女に御座います。留学前に1度…」
と言うライラックに、殿下は冷たく、


「ライラック?知らんな」
と言ったかと思うと、

「ワーカー伯爵?なら、アメリア嬢の…?」
と不思議そうな顔をした。

「アメリアは私の妹ですわ!」
と笑顔になるライラック。
…さっき貴女の事知らないって殿下言ってたけど、何故その笑顔?

「…似てないな」
と吐き捨てるように殿下は言うと、

「アメリアちゃん、気分悪いんだろう?さぁ、行こう」
と私を連れて行こうとする。それをライラックが、

「殿下!そんな女に構う必要はありません!アメリアは小さな頃からそうやって仮病を使っては人の気を引く事に長けていたんです!どうせ仮病ですから!」
と引き留めた。

…子どもの頃に仮病なんて使った事はないが、今は本当に仮病だ。どうしてバレたんだろう?

「さっきから、君…失礼じゃないか?アメリア嬢は公爵夫人。例え妹だったとしても、その口のききかたは、不躾過ぎるだろう!」
と殿下は大きな声を出す。

周りの人々が好奇な目でこちらをチラチラと見ている…居たたまれない。

出来ればそっと帰りたかったのに…。

すると、


「デイブ?何を騒いでいるのです?」
と優雅な立ち振舞いでロックハート夫人が此方へとやって来た。

あぁ…もうダメだ。夫人に目をつけられない為にこのお茶会に参加したというのに、悪目立ちしてしまった……。
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