90 / 117
第90話
しおりを挟む私は一瞬ライラックの姿を確認するために振り向いた。
…やっぱりライラックだ。…ちなみにあのデイドレスにも見覚えがある。
私はライラックに見つからない為にも急いでバラ園へと向かうべく顔を前に向けた瞬間、
「アメリアちゃん!」
と私の行く手を遮る影。……殿下だ…。
くそっ!ライラックに気を取られている間に、前に回り込まれていた。
「デ、デイブ王太子殿下。ご機嫌麗しく存じます。あ、私、用を…」
思い出して…と言おうとする私の言葉を遮るように、
「バラ園に行くの?僕、ここに詳しいんだ。案内するよ」
と私の手を引いて行こうとするのを、私はやんわりとほどいた。
「あ、少し気分が悪くて…失礼は承知なのですが、夫人に挨拶をして帰ろうかと…」
「え?!気分が悪いの?それは大変だ。屋敷の中で少し休むと良い。僕が案内しよう」
いや、いや、いや、待て、待て、待て。
2人でここを離れる方が不味いだろう。
「そんな!殿下のお手を煩わせるような事、出来ません。私1人で大丈夫ですから、
殿下は他の方のテーブルへどうぞ。皆様お待ちですわ」
ほら、独身令嬢達の目が爛々と輝いているじゃないですか。あっちに行って下さいよ~。
ここで、殿下と揉めて(?)いたのが悪かった…と後悔しても後の祭りだ。
「ちょっと!どうしてあんたが此処に居るのよ!」
…ライラック登場…。『前門の虎、後門の狼』って今のこういう状況を言うのかしら?
「ど、どうしてと言われましても…」
と私が言おうと振り返ると、私の目の前には男性の背中…殿下…動きが早くないですか?
「君は誰だ?アメリア嬢に失礼な物言いだな。名を名乗れ」
ライラックは目の前の殿下に唖然としたかと思うと、
「まぁ殿下!私の事、お忘れになっちゃったんですか?ライラックです。ライラック・ワーカー。ワーカー伯爵の次女に御座います。留学前に1度…」
と言うライラックに、殿下は冷たく、
「ライラック?知らんな」
と言ったかと思うと、
「ワーカー伯爵?なら、アメリア嬢の…?」
と不思議そうな顔をした。
「アメリアは私の妹ですわ!」
と笑顔になるライラック。
…さっき貴女の事知らないって殿下言ってたけど、何故その笑顔?
「…似てないな」
と吐き捨てるように殿下は言うと、
「アメリアちゃん、気分悪いんだろう?さぁ、行こう」
と私を連れて行こうとする。それをライラックが、
「殿下!そんな女に構う必要はありません!アメリアは小さな頃からそうやって仮病を使っては人の気を引く事に長けていたんです!どうせ仮病ですから!」
と引き留めた。
…子どもの頃に仮病なんて使った事はないが、今は本当に仮病だ。どうしてバレたんだろう?
「さっきから、君…失礼じゃないか?アメリア嬢は今のところ公爵夫人。例え妹だったとしても、その口のききかたは、不躾過ぎるだろう!」
と殿下は大きな声を出す。
周りの人々が好奇な目でこちらをチラチラと見ている…居たたまれない。
出来ればそっと帰りたかったのに…。
すると、
「デイブ?何を騒いでいるのです?」
と優雅な立ち振舞いでロックハート夫人が此方へとやって来た。
あぁ…もうダメだ。夫人に目をつけられない為にこのお茶会に参加したというのに、悪目立ちしてしまった……。
48
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる