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第85話
しおりを挟む屋敷に戻ると、予定より早く帰宅した私達を、メイナードは心配そうな顔で出迎えてくれた。
「メイナード…そんな顔をするな。
別に問題を起こした訳じゃない…と思う」
と歯切れの悪い返事をする旦那様。
…問題をこちらが起こした訳ではないが、問題は起こってしまった。
デイブ殿下は…これからどういう行動に出るのだろう。
普通に考えれば、私を諦めるの一択だと思うのだけど。
そんな歯切れの悪い回答にますます顔を曇らせたメイナード。
しかし、一緒に出迎えてくれたローラが、
「まぁまぁ。夜会のお話は明日改めてお聞きしましょうよ。今晩はもうお疲れでしょう。奥様もお着替えしませんと…ね?」
とメイナードに努めて明るく言った。
メイナードもそれに頷いて、今日は引いてくれるようだ。
私はローラと一緒に部屋へ戻ろうとするも、旦那様に腕を捕まれた。
私がそれに驚いて旦那様に振り返ると、
「き、き、、今日は、夫婦の寝室で休まないか?す、少し話したい事もあるし」
と顔を赤くして、噛み噛みになりながら、旦那様は私に言った。
「へ?あ、…はい。わかりました」
と私も反射的に返事をする。
旦那様は
「じ、じゃあ後で」
と私の手を離し、自分の部屋へと戻って行く。
私がその背中を見送っていると、ローラがクスクス笑いながら、
「さぁさぁ奥様。お坊っちゃまが待ちくたびれて眠ってしまわないように、急いで準備をいたしましょうね」
と私を部屋へと連れて行く。
準備?
私は不思議に思いながらも、ローラと一緒に部屋へと戻って行った。
私が夫婦の寝室に入ると、旦那様は既に待っていた。
「あの…お待たせしました」
と私が謝罪すると、
「いや………そんなには待っていない」
と言う旦那様の前には半分以上が消えた水差しが置いてある。
察するに…結構待ったんじゃないかしら?
私はその隣に座って、
「旦那様…お話というのは?」
と私が訊ねても、旦那様は、
「あ~。うん…まぁ、…その…」
と歯切れが悪い。
…どんどん声も小さくなるし。
顔も何だか強張ってるし…どうしたんだろ?
「旦那様…何だか…困り事ですか?」
「困ってる…ような困ってないような…」
「あの…私では何の役にも立てないかもしれませんけど、お話聞くぐらいなら出来ますよ?」
「あ…まぁ…そうだな…」
…そしてまた、無言…。どうしちゃったんだろ。
すると、旦那様は意を決したように、私の手を握ると、
「き、今日は…妊娠しやすい日…ではないんだよな?」
「は、はい。そう…ですね。でも妊娠しやすい日だからって妊娠する訳じゃないって…モーリス先生も…」
と私が言いかけると、
「…ダメなのか?子どもを作る為じゃなきゃ…アメリアを抱けないのか?」
「え?……子ども…の為じゃ…」
「そういう行為は、子どもを作る為…だけじゃないだろ?」
「そ、そうですね。…でも…旦那様は…」
「……僕はアメリアを妻だと思ってる。子どもを産ませる為の道具じゃない…」
そこまで言うと旦那様は、また黙ってしまった。
…旦那様の気持ちを知りたいんだけど…うちの旦那様はそんな事を口に出すタイプではないのかもしれない。
「旦那様。夫婦ですから。私達」
と私は笑顔で旦那様に答える。
すると、旦那様は私に笑顔を見せてくれると、ゆっくりと顔を近づけて、そっと口付けた。
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