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第84話
しおりを挟む馬車の中、旦那様は随分と無言を貫いた後、ポツリと、
「…アメリア。デイブ殿下と初対面ではなかったのだな」
と私に訊ねた。
「えっと…何からお話したらよろしいのか…」
と私が頭の中で話す事を整理していると、
「…無理に話す事はない。話したくなければ…」
「いえ!違います。私、説明しようとするとダラダラと長くなってしまいそうで。
そうですね…まだ母が元気だった頃、私は母につれられて、母の実家、ラーゲル伯爵邸へ遊びに行く事がありました。
ある日…庭で蝶を追いかけていると、生垣の隙間から男の子が現れて。
多分それがデイブ殿下だったのだと思います」
「思います?アメリアはその少年の素性を?」
「全く知りませんでした。先程、殿下からお話を聞くまで。
それにその男の子の事を思い出したのもつい最近。たまたまその男の子が私を見て言った言葉を思い出しただけです」
「どんな言葉だ?」
「えっと…確か『君の髪はまるで、夜の月の光みたいだ。それに、瞳は…アイオライトのよう』…だったかと…」
自分を褒めるような言葉を自分自身で口にするなんて…恥ずかしくて死ねる。
「それで『アイオライトの君』か…」
「…そのようですね。私は殿下の顔を見てもピンときませんでしたけど」
という私に、
「向こうは直ぐにわかったみたいだがな」
と少し不貞腐れたように旦那様は言った。
「うーん…私って成長しても顔が変わっていないのでしょうか?」
と不思議がる私に、
「馬鹿。それだけ殿下にとってお前の事が大切な思い出だったって事だろ」
と旦那様は呆れたように言った。
…なるほど。
「と言う事は…せっかく褒められたというのに、私にとってはあまり大切な思い出ではなかった…ってことですね」
と私が納得したように言えば、旦那様は少し嬉しそうに微笑んだ。
そして、
「でも……かなりアメリアに執着しているようだったな。まさかその為に留学までするとはな」
と旦那様が言えば、私も、
「本当にそうですよね。理由を聞いて私もびっくりです。
…お金持ちの考える事は私にはわかりません」
と頷いた。
すると旦那様は笑いだして、
「アメリア…お前はいつも面白いな」
と言われ、私は、
「それって…褒めてませんよね?」
と少し口を尖らせた。
「いや?褒めてるさ。僕を唯一笑わせてくれる存在だからな」
と言う旦那様の顔を見て、私は、子どもの頃に褒められた時の記憶は薄れていても、この時の旦那様の笑顔は絶対に忘れないだろうと思った。
旦那様といれば、どんな日常も大切な思い出だ。
私はどの瞬間の旦那様も見逃したくないし、忘れたくないな…とそう思った。
私も旦那様の言葉におどけるように、
「笑わせてます?それとも笑われてます?」
と質問してみた。
旦那様は、
「…両方かな?」
と少し意地悪く答える。そんな所も凄く可愛い。
そんな中、ふと旦那様は真面目な表情になると、
「殿下が諦めてくれると良いがな…」
と小声で呟いた。
…諦めきれないって言ってたっけ…。
だからと言って、私は旦那様と離れる事など考えられない。
私が少し不安げに旦那様を見つめると、
「…心配するな。手離しはしないから」
と安心させるように微笑んだ。
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