83 / 117
第83話
しおりを挟む「お久しぶりでございます。お義姉様もおかわりなくて、何よりです。
お話したいのは山々ですが、先を急ぎますので、失礼いたします」
と私が挨拶して通りすぎようとするも、彼女は私の前に立ちふさがった。
「あんたは変わったわね。ふーん…やっぱり公爵って金持ちなんだ。ドレスもアクセサリーも高級品じゃない。…あんたみたいな不細工には似合わないけど」
こうして昔は毎日、『不細工』『不細工』って言われていたっけ。ちょっとだけ懐かしいわ。私は、彼女の姿を見て、つい、
「お義姉様のドレス…」
と呟いてしまった。
彼女が着ているドレスには見覚えがある。
しかし、1度着たドレスを着るのを嫌がる彼女が?
貴族令嬢とはそう言うものだ、同じドレスで夜会に出るのは恥だと、そう常々言っていた彼女が?
もしかしたら、実家の経済状態は益々悪化しているのではないだろうか?
私という食いぶちが減った所で、屁の突っ張りにもならなかったと見える。
しかし、私の口走った一言が彼女の逆鱗に触れたらしい。
「はぁ?何なの?
ちょっと金持ちに嫁いだからって、あんたが偉くなった訳じゃないんだけど?!
それに、私ならどんなに金持ちでも、あんな男と結婚するなんて御免よ!気持ち悪い!!」
とライラックは大声を出した。
確かに、偉いのは旦那様であって私ではない。
しかし旦那様の悪口に私の堪忍袋の緒は切れた。
「貴女に旦那様の何がわかるのですか?!旦那様は誰よりもお優しくて素晴らしい方です。この国で旦那様がどれ程のお仕事をなさっていると思っているのですか!
…と言っても別に貴女に旦那様の良さを理解して頂こうなんてこれっぽっちも思っていませんけど!」
と私も言い返す。
「ふん!私が王太子殿下の婚約者になった暁には、あんたの旦那を降格させてやるわ!覚えてなさい!」
…ライラックこそ何を勘違いしているのか。
王太子殿下の婚約者になったからってそんな事が出来る訳もないし、そんな権限もない。
…そして多分だけど、彼女が婚約者に選ばれる事もないだろう。
すると、私の後ろから、
「ほう。面白い。僕を降格?出来るならすれば良い。その前にワーカー伯爵家が潰れるのが先だろうがな」
と旦那様の声がした。
旦那様は私の横に立つと私の腰を抱きながら、
「お前、アメリアがどの立場に居るかわかっているのか?ただの伯爵令嬢が気軽に話しかけられる立場でない事ぐらい、その軽い脳ミソでも理解出来るだろ?」
とライラックに吐き捨てた。
ライラックは、
「で、でもアメリアは私の妹…」
と言う彼女に、
「アメリアはもうお前の妹ではない。ワーカー伯爵家とは絶縁している。お前の父親にでも聞け。
それと、この失礼な振る舞いは正式に伯爵家へと苦情を入れさせて貰うからな」
と旦那様は言った。
そして、
「アメリア、扇子はうちの馬車に届けられていた。…帰るぞ」
と私に告げる。
私は、小さく頷くと、唖然と立ち尽くすライラックを無視して、旦那様と共に来た道を戻る。
旦那様は、
「すまなかったな。側に居れなくて。約束を破った」
と前を向いたまま私に謝罪した。
「私が勝手に旦那様から離れたのです。謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」
と私も謝罪を口にした。すると、旦那様は、
「辛くなかったか?」
と私に訊ねる。
「はい。旦那様が来て下さいましたから」
と私が答えると、旦那様は私の頭は優しく撫でた。
48
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる