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第83話
しおりを挟む「お久しぶりでございます。お義姉様もおかわりなくて、何よりです。
お話したいのは山々ですが、先を急ぎますので、失礼いたします」
と私が挨拶して通りすぎようとするも、彼女は私の前に立ちふさがった。
「あんたは変わったわね。ふーん…やっぱり公爵って金持ちなんだ。ドレスもアクセサリーも高級品じゃない。…あんたみたいな不細工には似合わないけど」
こうして昔は毎日、『不細工』『不細工』って言われていたっけ。ちょっとだけ懐かしいわ。私は、彼女の姿を見て、つい、
「お義姉様のドレス…」
と呟いてしまった。
彼女が着ているドレスには見覚えがある。
しかし、1度着たドレスを着るのを嫌がる彼女が?
貴族令嬢とはそう言うものだ、同じドレスで夜会に出るのは恥だと、そう常々言っていた彼女が?
もしかしたら、実家の経済状態は益々悪化しているのではないだろうか?
私という食いぶちが減った所で、屁の突っ張りにもならなかったと見える。
しかし、私の口走った一言が彼女の逆鱗に触れたらしい。
「はぁ?何なの?
ちょっと金持ちに嫁いだからって、あんたが偉くなった訳じゃないんだけど?!
それに、私ならどんなに金持ちでも、あんな男と結婚するなんて御免よ!気持ち悪い!!」
とライラックは大声を出した。
確かに、偉いのは旦那様であって私ではない。
しかし旦那様の悪口に私の堪忍袋の緒は切れた。
「貴女に旦那様の何がわかるのですか?!旦那様は誰よりもお優しくて素晴らしい方です。この国で旦那様がどれ程のお仕事をなさっていると思っているのですか!
…と言っても別に貴女に旦那様の良さを理解して頂こうなんてこれっぽっちも思っていませんけど!」
と私も言い返す。
「ふん!私が王太子殿下の婚約者になった暁には、あんたの旦那を降格させてやるわ!覚えてなさい!」
…ライラックこそ何を勘違いしているのか。
王太子殿下の婚約者になったからってそんな事が出来る訳もないし、そんな権限もない。
…そして多分だけど、彼女が婚約者に選ばれる事もないだろう。
すると、私の後ろから、
「ほう。面白い。僕を降格?出来るならすれば良い。その前にワーカー伯爵家が潰れるのが先だろうがな」
と旦那様の声がした。
旦那様は私の横に立つと私の腰を抱きながら、
「お前、アメリアがどの立場に居るかわかっているのか?ただの伯爵令嬢が気軽に話しかけられる立場でない事ぐらい、その軽い脳ミソでも理解出来るだろ?」
とライラックに吐き捨てた。
ライラックは、
「で、でもアメリアは私の妹…」
と言う彼女に、
「アメリアはもうお前の妹ではない。ワーカー伯爵家とは絶縁している。お前の父親にでも聞け。
それと、この失礼な振る舞いは正式に伯爵家へと苦情を入れさせて貰うからな」
と旦那様は言った。
そして、
「アメリア、扇子はうちの馬車に届けられていた。…帰るぞ」
と私に告げる。
私は、小さく頷くと、唖然と立ち尽くすライラックを無視して、旦那様と共に来た道を戻る。
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と前を向いたまま私に謝罪した。
「私が勝手に旦那様から離れたのです。謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」
と私も謝罪を口にした。すると、旦那様は、
「辛くなかったか?」
と私に訊ねる。
「はい。旦那様が来て下さいましたから」
と私が答えると、旦那様は私の頭は優しく撫でた。
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