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第80話
しおりを挟む部屋に着いて…。私と旦那様、デイブ殿下とライオネル殿下。2人ずつ長椅子に腰かけて向かい合った。
口火を切ったのは…旦那様だ。
「ライオネルに気圧されてここまでついてきたが…よく考えたら僕達夫婦には、話をするべき事が何もない。
申し訳ないが、ここで失礼する。…アメリア、帰ろう」
と立ち上がると、私に手を差し出した。
私はその勢いに思わず旦那様の手を取って立ち上がろうとした瞬間、
「待ってくれ!」
とデイブ殿下が大きな声で私の動きを封じた。
旦那様はその行動に舌打ちをすると、デイブ殿下を睨んでいるようだ。目は見えないけど…。
そんな旦那様に負けじとデイブ殿下も旦那様を睨む。
2人の間で私はオロオロしてしまう。
すると2人の交わった視線を遮るように、
「まぁ、待て待て。今フロアに帰ったら、好奇の目で見られるぞ?折角ここまで来たんだ、まぁ、ゆっくりしようじゃないか」
とライオネル殿下が割って入った
今日の主役であるデイブ殿下が此処でゆっくりしていても良いのだろうか?
「フロアには戻らん。このま屋敷へ帰る」
と言う旦那様に、
「おい、王家主催の夜会で陛下に挨拶もなしなんて、不味いだろう?とりあえず座ってくれよ、ウィリアム」
とライオネル殿下は手で旦那様に長椅子に座るよう促した。
旦那様は渋々といった様子でドスンとまた長椅子に腰を下ろす。それを見たライオネル殿下は笑顔になって、
「助かるよ。ありがとう」
と答えた。
…ライオネル殿下も仲裁役なんて、お可哀想に…と私は自分がこれからこの話の主役になるなど想像もせずに、呑気に考えていた。
…直ぐ様、そんな自分を殴りたくなった。
「僕はずっと…子どもの頃に出会った少女に恋をしていました。
あの時、僕が結婚するのは彼女しかいない、そう思っていたのに…。それから彼女の姿を見る事はなかった。
ラーゲル伯爵に何度その少女の事を聞いても教えてくれなかった」
そう少し辛そうな顔をするデイブ殿下。
…やはりあれはラーゲル伯爵家の庭だったのね。
あの後、母が亡くなって私は使用人と同じ暮らしをしてきた。王太子殿下と顔を合わせる機会など皆無だ。
それに、ラーゲル伯爵家も大変だった。きっと、私の事を王家に…など考える事も出来ない状況だったに違いない。
デイブ殿下の話は続く。
「あれから…令嬢の集まる場には、なるべく顔を出した。それでも見つからない。
あの時期、ラーゲル伯爵家は隣国との取引の関係で、客人が来ている事もあったと聞いたから、留学までしたんだ」
との言葉に私も旦那様も驚いた。
「そんな理由で留学していたのか…」
と呟く旦那様に、
「これは秘密にしていた事だが、陛下も理由はご存知だ。流石にそんな事は公に出来なかったが…今回目当てのご令嬢は見つからなかった…と肩を落として帰国したんだが…まさか、その相手がアメリアちゃんだったとは…ね」
とライオネル殿下は苦笑いした。
「もう期限だと言われ、探すことを諦めて適当なご令嬢と婚約しなければならないのかと…自棄になっていたが…。アメリア嬢。ここで会えたのは運命だ。
…私と結婚して下さい!」
とデイブ殿下は至極真面目な顔でとんでもない事を言い出した。
「あの…私、もう結婚しておりますが?」
と私が言うのと、同時に旦那様も、
「アメリアは私の妻だ。殿下はどこぞの適当なご令嬢とご結婚されて下さい」
と冷たく言い放った。
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