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第77話
しおりを挟む「なるほどぉ。どうして私の居場所が旦那様にバレたんだろうと、不思議に思っていたんです。
これで謎が解けてスッキリしました!」
と私が笑顔で言えば、
「……気持ち悪い、とは思わないのか?」
と旦那様が不思議そうな顔で私に訊ねた。
「気持ち悪い?どうしてです?」
「いや…自分の居場所が勝手に相手に知られる事が…だ。
僕はこの事をアメリアに内緒にしていた」
「あぁ。そういう意味で。
んー別に気持ち悪いとは思いませんよ?
あ、でも一言、言って貰っていれば、あんな風に出ていこうなんて思わなかったかもしれないですね。…出て行ってもバレるので。
それに、私、そんなに行動範囲が広い訳ではありませんし…別に旦那様に居場所が特定されたところで、困る事もないので」
と答えた私に、
「…そうか。お前が別に気にしていないなら良い。念のために付加した魔法だが、役に立った」
と旦那様は言った。
「あの時、正直言って男性に絡まれていたので、助かりました。
私、今までは1人で出歩いても、あんな風に声を掛けられた事なんてなかったので、どう対処するのが良いか分からなくて…やっぱり、あれってお金目的ですかね?誘拐とかされちゃう感じなんでしょうか?」
と言う私に、
「お前は…あの男の目的がそんな事だと?」
と呆れたように旦那様は言う。
「え?それ以外になくないですか?」
と私は疑問を口にした。
「……まぁ、気づいてないなら別にそれで良い。
とにかく、今度から出歩く時には侍女と護衛を連れて行け。わかったか?」
と旦那様に念を押されてしまった。
私が素直に返事をすると、旦那様はまた外を眺めて、
「もうすぐ着くな」
とポツリと告げた。
いよいよだ。緊張する。
御者に到着を告げられ、旦那様は先に外へと出た。
私は旦那様の手を取って、馬車を降りる。
旦那様と私の姿に周りに居た人達がざわついているが、私はそんな事に構っていられない。
とにかく転ばないようにと、旦那様がエスコートで出してくれた腕をしっかりと掴むと、旦那様は小声で、
「そんなにきつく握っていると、お前が疲れてしまうだろう。大丈夫だ。もし転びそうになっても僕が支えるから」
と私の耳に囁いた。
その様子に、ますます周りの人達はざわつき始める。
そんな事を気にする様子もなく、旦那様は堂々と会場を目指し歩き始めた。
私も、厳しかった講習を思いだし、俯く事なく、前に進む。
旦那様が居れば大丈夫。私は本当に心からそう思えた。
私と旦那様の入場は王家の前。そう、招待客では最後となる為、会場脇の控え室に入る。
ここで順番を待つのだが、私は緊張で心臓が口から飛び出しそうだ。
だって…最後って事は皆が見ている中、入場しなければならないと言う事だ。荷が重い。
「旦那様が夜会嫌いなの、分かります。
毎回、こんな重圧を感じなければならないなんて…公爵って大変ですよね」
と私が素直に告げると、
「僕が夜会嫌いな理由は別にそれじゃないが…人から注目されるのはいつまで経っても慣れないな」
と少し旦那様は笑った。自嘲気味に。
「旦那様、2人で乗り越えましょうね!」
と私が拳を握ると、旦那様は笑った。
今度は楽しそうに。
私はその笑顔を見て『旦那様はあまり緊張しない質なのかもしれない』と少し羨ましく思った。
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