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第76話
しおりを挟む「旦那様、タッドを探して下さって…ありがとうございました。
でも…私、タッドの話を旦那様にした覚えがないのですが…」
馬車の中で向かい側に座り、外を眺める旦那様に話しかける。
「ん?あぁ。ローラに聞いた。
アメリアが世話になった人だと聞いたからな。それに…会いたかったんだろ?」
と旦那様は外を眺めたまま答えた。
「はい。…母に付いてきた侍女は、母が死んだ後、直ぐに解雇されました。私の世話をしていた侍女もです。
昔からいるメイドは、継母や義理の姉達の私への態度に我慢出来ずに父へお願いに行ったのですが…それから直ぐに解雇されて…。どんどんと私は孤独に。
タッドは執事でしたから、私の味方をしても直ぐに解雇とはなりませんでしたが、それでも私は不安で。彼は再就職するには歳をとりすぎていましたから。
なので、表立っては父や継母に逆らわず、私の味方をしなくて良いと伝えていたのです。
…彼はそれをずっと後悔していたのかもしれませんが、私としては彼が居た事が心の何処で拠り所となっていたのは事実ですから。
彼がたまにくれる甘味が私の心を癒してくれました」
と私が言うと、旦那様は窓から視線を外し、私の顔を見た。
もちろん目は前髪で隠れているけれど、私の事をきちんと見てくれているのが分かる。
「今から行く夜会には、アメリアの元家族が居る。その前に彼に会わせたかったんだ。
ちゃんとアメリアの幸せを心から願っている者がいるのだと、そう心に刻んで欲しかった」
と言う旦那様に私は心が温かくなるのを感じる。
この人は本当に優しくて温かい人だ。
自分もずっと辛い思いをしてきた筈なのに、こんなに他人を思いやる事が出来る。
どうして皆は彼を嫌いになれるのだろう?瞳の色が悪魔に似てるから?それとも、彼の力が強大過ぎるから?
人は自分に無いものを持つ人間に嫉妬し、恐れをなすのかもしれないが、その感情を向けられた者はたまったもんじゃない。
私はつい旦那様の顔をじっと見つめていたようで、
「そんなに見つめられると、減る」
といって、また馬車の窓から外を眺めるように旦那様はそっぽを向いた。
…旦那様は照れ屋だ。また…耳が赤い。
「そういえば、私、旦那様にお訊ねしたいことがあったのです」
私はずっと疑問に思っていた事をこの機会に訊いてみることにした。
「何だ?」
まだ外を眺めたままの旦那様が声だけで返事をする。
「前に…王都で私が街へ1人で出掛けた時に、何故、私の居場所が分かったのです?」
…イメルダ様の事で家を飛び出した時の事だ。
旦那様は何処からともなく私の目の前に現れた。
…そういえばあの男性はどうなったのだろう。
私が疑問を口にすると、旦那様は、
「あ、あれは…。その…」
と急に口ごもった。え?言えない事なの?
「何か…良くない魔法か何かですか?」
と私が恐る恐る訊ねると、
「…その…別に禁術魔法とかではない。
お前のその…指輪だ。その指輪をアメリアが着けている限り、お前の居場所が分かる様になっている」
と旦那様はなんとなく、ばつが悪そうに告げた。
私は旦那様とお揃いの結婚指輪をまじまじと見つめて、
「これに?そんな魔法がかけられているのですか?」
と更に質問すると、旦那様は、
「あぁ…まぁ。そうだ」
とますます言いにくそうに答えた。
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