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第72話
しおりを挟む「わ、私は…別にネイサンとそんな関係じゃ…!」
と焦るイメルダ様。
確かに、そんな男と関係があった女性が、これから普通に貴族令嬢として嫁げるのかと言えば、かなり難しいかもしれない。
「まぁ、僕にとってはどちらでも良い事だ。どうせ、ネイサンの居場所など知らないのだろう?」
と言う旦那様に、
「し、知ってるわよ!彼が隠れ家にしていた場所はわかるもの!」
とイメルダ様は叫んで、直ぐに不味いと思ったのか、口を手で隠した。
「そうか…。証拠はなさそうだが、彼を探す手掛かりにはなるかもしれんな」
と旦那様はニヤリと笑う。
さっきのは…引っかけだったのかもしれない。まんまとイメルダ様は口を滑らせた訳だ。
「な、なら私を保護してくれるの?」
と不安げに言うイメルダ様に、旦那様は、
「ユージーン。辺境伯の所に連れて行け」
と命令した。
ユージーンはイメルダ様に近づくと、
「さぁ、行きましょうか。辺境伯がお待ちです」
とイメルダ様の手を掴んだ。
イメルダ様は、
「ちょっと!私は公爵に保護して欲しいの!辺境伯なんて…隣国に引き渡されるのと同じじゃない!」
と手を振りほどこうとするが、ユージーンはそれに構わず、イメルダ様を引っ張って行くように連れて行ってしまった。
残された子爵に旦那様は、
「残念だったな。娘を僕にどうにかしてもらおうと思ったようだが。力になれる事はなさそうだ。
お帰りはあちらだ。気をつけて」
と言うと、扉を手で指し示した。
子爵は、
「し、失礼…」
と言って、急いで帰って行った。
私は旦那様に、
「旦那様…イメルダ様は…」
と恐る恐る訊ねる。
「まぁ…拷問にかけるまでもなく、あの女なら口を割るだろう。
と言ってもネイサンがそう簡単に捕まるとは思えないがな」
と旦那様は私に答えると、
「心配しなくても良い。彼女はそんなに重い罪に問われる事はない。盗賊団の金を使ったのは不味かったが、今回隠れ家の場所を言えば、相殺される筈だ」
と私を安心させるように微笑んだ。
…そうか。私がイメルダ様の心配をしているように見えたのか…。
私、旦那様が思うより、ずっと性格が悪いのかもしれない…イメルダ様が心配と言うより、彼女が今後、旦那様にちょっかいを掛けて来ないかの方が心配だからだ。
しかし、それを言う勇気はない。そんな事を言えば、旦那様に嫌われるかもしれないし。
「そうですか…。イメルダ様はこの7年程で随分と変わられたのでしょうか?」
…だって、旦那様を嫌って、死を偽装してまで逃げたというのに、そんな旦那様を頼るなんて…どういう心境の変化なのだろう。
そんなに隣国って怖い所なのかしら?それとも、そのネイサンって男が怖いのかしら?
「さぁな。元々あんな女だったのかもしれないし、色々と大変な思いをして、ああなったのかもしれないが、真実を知りたいとも思わないよ」
と旦那様は肩を竦めた。
「旦那様、私を此処へ同席させたのは…?」
「アメリアがあの女の事を心配していたようだったからだ。違ったか?」
そんな風に言われたら、心苦しい。
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