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第64話

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「旦那様は……ずっと私との離縁について考えていらっしゃったのですね…」
と呟く私の声は震えていたと思う。

旦那様への気持ちを自覚した途端に失恋してしまった。

「は?離縁したいと思っているのは、お前の方だろう?」
と少しイラついたような声の旦那様に私は、

「だ、だって…これを用意する事が1日、2日で出来る訳ないじゃないですか!
旦那様が、前からこれを準備されていたのでしょう?!」
思わず声を荒げてしまう。

…しかも涙まで出てきた。

「何を!?これを用意したのは、離縁の為ではない!
僕に…万が一の事があった場合…お前がこの家に縛られる事のないようにと考えた結果だ!
その時、お前が自由に出来るように…と。
そうなっても、お前が実家に身を寄せる事は考えられないだろう。
しかし、此処を出てからまた貴族として生活していれば…いつの日か、さ、再婚を考える事も出来るかもしれないと…僕はそう考えてこれを準備していただけだ。
…僕の元から逃げたのは…お前の方だろう?アメリア」

「私は…邪魔者です。旦那様から『出て行け』と言われる前に、自分から身を引こうと…」

「何故、僕が『出て行け』と言うんだ?それに…邪魔者扱いした覚えもない」

「旦那様…王都のタウンハウスにはお戻りになったのですよね?」

「ああ。お前が居なくなったとロバートから連絡を貰ったからな」

「…ならば…イメルダ様にお会いしたのでは?」


「あぁ。会った。と言っても、顔を合わせた程度だがな」

「ならば…私はやはり邪魔者です。イメルダ様が旦那様の元へ戻って来られたのですから…」

「だから、それが何故なのかわからないんだが?それと、これとは関係ない」

「関係あります!旦那様には…幸せになっていただきたいのです。
私に義理立てする必要はありません。
イメルダ様と幸せになってください」
と私は泣きながら俯いた。

もうこれ以上は言いたくない。自分が惨めに思えてきた。

すると旦那様は、

「…僕が悪かったな。確かに…僕はイメルダを好きだった。
幼い頃、父に無理やり連れて行かれた王都の祭りで、幼い彼女が踊っていたんだ。白いワンピースに花の冠を被って。
僕は皆に嫌われていたから、お祭りも全然楽しくなくて…けど彼女を見たら、僕に微笑んでくれた。
きっと、僕に笑いかけた訳じゃない事ぐらい…よく考えたらわかったんだけど…その時の僕はそう思い込んでいた…。
もしかしたら、彼女なら僕を受け入れてくれるかも…そんな事を考えた。…結局は幻想だったがな」

「私は…旦那様がイメルダ様を想っていらっしゃる事を承知して結婚しました。…イメルダ様が帰って来られた今…」
と私が言いかけると、

「アメリア…最後まで聞いて欲しい。確かに、君が此処に来た当初の僕の態度は酷いものだった。それは認める。
謝って済む問題ではないが、申し訳なかったと思っている。
だがな…僕はそんな簡単な気持ちで君を抱いた訳ではない。
確かに最初は…君に襲われたが、抵抗しようと思えばいくらでも出来たんだ。
女に襲われるなんて、男として情けなさすぎて、泣いてしまったがな。
…アメリア、僕は離縁するつもりはないよ。…ただし、君が此処を出て行きたいのであれば話は別だ」

私は、今の旦那様の言葉を脳内で反芻する。
でも、確認せずにはいられない。

「旦那様…イメルダ様は旦那様とやり直したい気持ちで戻って来られたのではないでしょうか?
それなのに、その手を離してしまわれても良いのですか?…後悔しませんか?」

「僕はアメリアの手を離す方が後悔すると思っているよ。だって…アメリアは僕を笑顔に出来る唯一の存在なんだろう?
でも、君は現に、出ていこうとしていた。もし…どうしても僕の元を去りたいなら…」
と言う旦那様に、私は、

「ち、違うんです!旦那様と…イメルダ様の仲を邪魔してはいけないと思って…。
旦那様…私、此処に居ても良いですか?
…此処に…旦那様の側に居たいんです」
と旦那様に最後まで言わせる事なく、自分の気持ちをハッキリと言った。

旦那様は、椅子から立ち上がり、私の元へ来ると、ぎこちない動作で私を抱き締めた。

「もちろんだ。僕達は夫婦なんだから」
と言う旦那様の声はとても優しかった。

         
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