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第59話
しおりを挟む「ちょっと!私はウィリアム様と話したいの!早く彼を出して!」
タウンハウスの応接室に通したイメルダ様らしき女性は、早速自分の要求を話し出した。
…こういう時って、私が先に声をかけなきゃ、イメルダ様は話してはいけないんじゃなかったかしら?
私はオーデル夫人との特訓を思い出しながら、
「あの…そんな大きな声を出さずとも、聞こえております。…主人は仕事に出ておりますので、私が代わりにお話を聞きたいと思うのですが…。まず、貴女のお名前を聞かせて頂けますか?」
目の前の女性は…多分イメルダ様で間違いはないと思うのだが、旦那様の部屋に飾られていたイメルダ様の肖像画の印象とは、随分様子が違っている。
ふわふわだった金色の髪の艶は失われ、さくらんぼの様に瑞々しかった唇もカサカサ。顔もなんだかやつれているように見える。
顔立ちは可愛らしいのではないかと思うのだが、全体的にくたびれた感じだ。
「え?主人?どういう事?あなた、誰なの?」
名前を聞いたんだけどな…。こう言う時、私から名乗るもの?マナー的に大丈夫かしら?
「私は、アメリア・バルト。ウィリアムは私の主人です」
…なんか…照れちゃう。
しかし、目の前のイメルダ様らしき女性は目を丸くして、
「あの男が私以外の女と結婚する訳ないじゃない!私を騙すつもり?!さっさと、ウィリアム様を出しなさいよ!」
えっと…名前を名乗って欲しい…イメルダ様よね?何だか、私が思っていた人物像とかけ離れていて、自信がなくなってきたのだけど。
すると、私の後ろに控えていたロバートが、
「ご婦人。せめて名を名乗りなさい。この方はバルト公爵夫人ですよ?貴女はバルト公爵以上の爵位を持つ家の者ではないでしょう?」
と冷たい口調で言った。
ロバートだって、この方がイメルダ様である事はわかっている筈だが、決してこちらからは名前を出さなかった。
「私は…イメルダ。イメルダ・ベイン…いえ、イメルダ・バルトよ!だって、私、間違いなくここのウィリアム様と結婚したんですもの!」
と私を睨みながら、目の前の彼女は言った。
…バルトを名乗られるとは、思ってもみなかったわ。
しかし…やはりイメルダ様で間違いはなかった。生きている事を私も…そして後ろに控えているロバートだって知っているので、そこに驚きはしないが、何故、今、彼女は此処に居るのだろう?
それを聞いてロバートは、
「不敬ですな。バルトの名を語るとは。貴女がイメルダ・ベイン子爵令嬢であるという証拠は?
それに、当主である旦那様には、こちらのアメリア様という立派な奥様がいらっしゃいます。
何処の誰かは知りませんが、さっさと出て行って下さい。この屋敷に入れたのも、奥様の優しさからである事をお忘れなく」
とますます冷たい口調で彼女に言った。
「ま、待って!私がイメルダだって事はウィリアム様が見れば分かる事よ!
とにかくウィリアム様に会わせて頂戴!貴方のイメルダが帰ってきたと言えば、ウィリアム様は喜ばれる筈よ!」
そう言うイメルダ様の言葉に私は胸が痛くなった。
…そうだ。イメルダ様が戻って来たなら、今までの事情はどうであれ、きっと旦那様は大喜びされる筈…。
私は自分こそが邪魔者である事に気がついてしまった。
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