56 / 117
第56話
しおりを挟む「待て、お前は何か勘違いしてる」
と旦那様は私に言った。
勘違い…?
黙っている私に旦那様は、
「僕は社交界の嫌われ者だ。そんな僕と一緒ではアメリアに迷惑がかかる」
と淡々と言った。
自分の事を嫌われ者だと言うのを、何とも思っていない様な旦那様に胸が痛くなる。
この人は、ずっとそれを受け入れてきたのだ。
「迷惑だなんて!旦那様は立派な方です。
私の方が旦那様の隣に立つのに相応しい教養も、マナーも持ち合わせていないので、迷惑をかけるなら、私の方です!」
と私が強く言えば、
「いーや、僕の方が迷惑をかける」
「いえ!私の方です!」
「いや、僕の方だ」
と、一歩も譲らない私達の攻防に、旦那様はついに吹き出した。
「旦那様?何を笑って?」
と私が目を丸くすると、
「いや。お互い馬鹿みたいだと思ってな。『私だ』『僕だ』と」
と旦那様はまだ笑っていた。
それにつられて私も笑ってしまう。
「本当ですね…。なら、お互い様と言う事で、夜会に参加してみませんか?
もちろん、ダンスはなしの方向で。…王太子殿下に挨拶したら、直ぐに帰りましょう」
と私が言うと、旦那様は少し顔を曇らせて、
「…この夜会は伯爵以上の家は殆んど招待されている筈だ」
と声のトーンを少し落として言った。
「なるほど…それがどうかされましたか?」
「と言う事は、アメリアの実家も招待されていると言う事だ」
と言う旦那様の言葉に、私は旦那様がこの夜会への出席を渋っていた、本当の理由がわかった気がした。
「旦那様…もしかして、私が家族に会う事を心配して下さったのですか?」
「……嫌だろう?」
「旦那様…。だから夜会に出席しないと?」
すると、旦那様は小さく咳払いをすると、
「べ、別にそれだけが理由ではない。さっきも言った様に、僕は社交に向いてないからだ」
と誤魔化すように早口で言った。
「旦那様が側に居て下さるなら、例え家族に会ってしまっても大丈夫です」
と私は微笑んでみせる。
旦那様は少し困ったような顔で、
「もちろん僕はアメリアの側に居るが…無理はしなくて良いんだ。欠席したって問題はない」
と横になる私の頭を撫でる。
「いえ。…逃げていても仕方ありません。
まだ夜会までには時間がありますし、少しでも夜会のマナーを勉強したいと思います。なんなら、ダンスも…」
と私が言うと、
「ダンスは僕も苦手だ。それはなしの方向で」
と旦那様も微笑んだ。
「わかりました。メイナードもユージーンも喜びますね」
と言う私に、
「これからは、僕を説得するのにアメリアを使うようになるかもしれないな。それはそれで困るんだが」
と旦那様は苦笑いしてみせた。
73
お気に入りに追加
1,744
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

婚約を破棄したいと言うのなら、私は愛することをやめます
天宮有
恋愛
婚約者のザオードは「婚約を破棄したい」と言うと、私マリーがどんなことでもすると考えている。
家族も命令に従えとしか言わないから、私は愛することをやめて自由に生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる