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第56話
しおりを挟む「待て、お前は何か勘違いしてる」
と旦那様は私に言った。
勘違い…?
黙っている私に旦那様は、
「僕は社交界の嫌われ者だ。そんな僕と一緒ではアメリアに迷惑がかかる」
と淡々と言った。
自分の事を嫌われ者だと言うのを、何とも思っていない様な旦那様に胸が痛くなる。
この人は、ずっとそれを受け入れてきたのだ。
「迷惑だなんて!旦那様は立派な方です。
私の方が旦那様の隣に立つのに相応しい教養も、マナーも持ち合わせていないので、迷惑をかけるなら、私の方です!」
と私が強く言えば、
「いーや、僕の方が迷惑をかける」
「いえ!私の方です!」
「いや、僕の方だ」
と、一歩も譲らない私達の攻防に、旦那様はついに吹き出した。
「旦那様?何を笑って?」
と私が目を丸くすると、
「いや。お互い馬鹿みたいだと思ってな。『私だ』『僕だ』と」
と旦那様はまだ笑っていた。
それにつられて私も笑ってしまう。
「本当ですね…。なら、お互い様と言う事で、夜会に参加してみませんか?
もちろん、ダンスはなしの方向で。…王太子殿下に挨拶したら、直ぐに帰りましょう」
と私が言うと、旦那様は少し顔を曇らせて、
「…この夜会は伯爵以上の家は殆んど招待されている筈だ」
と声のトーンを少し落として言った。
「なるほど…それがどうかされましたか?」
「と言う事は、アメリアの実家も招待されていると言う事だ」
と言う旦那様の言葉に、私は旦那様がこの夜会への出席を渋っていた、本当の理由がわかった気がした。
「旦那様…もしかして、私が家族に会う事を心配して下さったのですか?」
「……嫌だろう?」
「旦那様…。だから夜会に出席しないと?」
すると、旦那様は小さく咳払いをすると、
「べ、別にそれだけが理由ではない。さっきも言った様に、僕は社交に向いてないからだ」
と誤魔化すように早口で言った。
「旦那様が側に居て下さるなら、例え家族に会ってしまっても大丈夫です」
と私は微笑んでみせる。
旦那様は少し困ったような顔で、
「もちろん僕はアメリアの側に居るが…無理はしなくて良いんだ。欠席したって問題はない」
と横になる私の頭を撫でる。
「いえ。…逃げていても仕方ありません。
まだ夜会までには時間がありますし、少しでも夜会のマナーを勉強したいと思います。なんなら、ダンスも…」
と私が言うと、
「ダンスは僕も苦手だ。それはなしの方向で」
と旦那様も微笑んだ。
「わかりました。メイナードもユージーンも喜びますね」
と言う私に、
「これからは、僕を説得するのにアメリアを使うようになるかもしれないな。それはそれで困るんだが」
と旦那様は苦笑いしてみせた。
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