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第55話
しおりを挟む「何かあったんじゃないのか?夕食の時、暗い顔をしていただろう?」
と旦那様は部屋に入りながら私に訊ねた。
…どうしてこの人はそんな事までわかるのだろう。
いつも通り振る舞っていたつもりだったのに…。
私は、
「少し…お腹が痛くて…」
と下腹部に手を当てる。
確かに痛みはあるが、それほどでもないのに、私はそんなに顔に出ていたのだろうか?
旦那様は私が腹部に当てた手を包むように、自分の手を置くと、
「痛みだけか?…その割りに、表情が暗いな。吐き気は?」
と心配そうに、私の手の上から擦ってくれた。
「旦那様…月の物が来てしまいました」
…また謝りそうになる自分が居る。
「そうか…痛みはその為だな。薬は?」
「モーリス先生に頂いたお薬が有る筈なのです。今、丁度探してて…」
と言う私の頬に旦那様が触れる。
「泣くほど痛いのか?」
いつの間にか、涙が流れていたようだ。
「いえ…そうではなくて…」
と私が否定すると、
「子どもが出来なかった事で自分を責めるのは止めるんだ。僕のせいだと思えば良いだろ?」
と旦那様が言う。
旦那様は私の涙の本当の訳に気づいているようだ。
「……はい」
と言う私に旦那様は、
「それで良い」
と言って頭を撫でてくれる。
「薬はどこだ?」
「確か…この引き出しに…」
旦那様は薬を探し出すと、水差しからグラスに水を注ぎ、私に薬と一緒に渡してくれた。
「さぁ、薬を飲んだら、寝ろ」
と私を寝台へと連れていき、寝かせた。
「じゃあ、ゆっくり休め」
と私に背を向けた旦那様の服の裾を掴む。
振り返った旦那様は、裾を掴んだ私の手を握り、
「どうした?」
と訊ねる。
「出来れば、私が眠るまで一緒に居て下さい」
と私は思いきって我が儘を言ってみる。
旦那様の優しさに、少し甘えてみたくなったのだ。
旦那様は微笑むと、
「わかった」
と言って、寝台の横に椅子を持ってきて座った。
側に居てくれるのは、嬉しい。嬉しいのだが…
「旦那様、そんなに見られていては、眠れません…」
「気にするな。さっさと寝ろ」
…いやいや、見つめられ過ぎて、穴が空きそうだ。
私は、この緊張感を解く為に、
「旦那様…夜会に参加するのは嫌ですか?」
と、夕食で無下に断られた夜会の話をしてみた。
「嫌だな」
…即答。
「でも…王家からの招待を断るのは、不味いのでしょう?メイナードも、ユージーンも嘆いていましたよ?」
「僕が行っても行かなくても、夜会は開かれる。問題ない」
取りつく島もない。
「そうだ…。旦那様、もしかして、夜会って夫婦で参加するものですか?」
私はふと、自分が参加する可能性がある事に思い至る。…すっかり自分の事を忘れていた。
「そうだな。絶対に…という訳ではないが、今回の招待状には僕達2人の名前があった」
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「私、自分の事をすっかり忘れておりました。夜会は私にも、無理です。
私、夜会はおろか、お茶会にも出た事ありませんので…正直に言うと、旦那様が断って下さるのなら、安心です。
旦那様に恥をかかせなくてすみます。
ローラには旦那様を説得するように言われていたんですけど…明日、謝ります」
私は自分がきらびやかな夜会に参加している所を想像して身震いする。
恥をかく事、間違いなしだ。
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