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第52話

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朝食後、私と旦那様は支度をすると、屋敷より少し離れた場所にある湖へと出掛ける事になった。所謂、ピクニックだ。


少し大きめのバスケットにランチを入れて、旦那様がそれを持つと、私へと腕を差し出した。

「掴まってろ」
と言う旦那様の腕に私は手をかける。

「では、行ってくる」
とメイナードとローラに声をかけると、旦那様は杖をひと振りした。

目の前の景色がグニャリと歪んだかと思えば、次の瞬間、湖が目前に広がる、広い草原に立っていた。

私は思わず、

「凄い…」
と声を洩らす。

旦那様は、

「領地には出掛けられるような場所が無くてすまないな」
と私に申し訳なさそうに言った。

「いえ!その…この景色も素晴らしいのですが、私、旦那様の魔法にびっくりしてしまって…」
と私が素直な気持ちを口にすると、

「余程驚いたんだろうな…口が開きっぱなしだぞ」
と旦那様はクスりと笑った。

私は慌てて自分の口を手で塞ぎ、

「すみません…みっともない所をお見せしました…」
と顔を赤くした。

「気にするな。さて…ここら辺で良いかな」
と私と腕を組んだままの旦那様は少し湖の方へと歩く。そして、徐にバスケットを地面へ置くとそこから折り畳まれた日除けのパラソルや、敷物を次々と出していった。

「旦那様…このバスケットにそんな大きな物が?」
と私は目を丸くする。

旦那様は敷物を敷いて、その上に私を座らせながら、

「これにも魔法がかかっている。私の発明品だ」
と説明してくれた。

「旦那様はたくさんの物を発明なさってますよね?お勤めの魔法省の至るところに旦那様の発明品が…」
と私が言うと、

「…なるべく人に会わずに過ごせるよう、考えた結果だ」
と旦那様は淡々と答えた。

素晴らしい発明の数々の開発の裏にそんな悲しい理由があったなんて…。

私は何と答えて良いのかわからず、少し無言になってしまう。それを見て、

「アメリアが悲しそうな顔をする必要はない。僕が人付き合いが苦手なだけだ」
と何て事ないように、旦那様は言う。

「切っ掛けはどうであれ、旦那様の発明で皆さん助かっていらっしゃるのですよね?…やっぱり旦那様は凄いです。私には何の取り柄もないから」

魔法の使えない私からすれば、旦那様は凄すぎて、畏れ多いぐらいだ。それに引き換え私は、得意な物もなければ、誇れる物もない。

「そうか?アメリアの淹れるお茶は旨いと思うがな」

旦那様は私が淹れるお茶を、何故か気に入って下さっている。

「そうですか?そう思っていただけるなら、嬉しいです。これから、特技を訊かれたら、『お茶を美味しく淹れる事が出来ます』って言う事にします」
と私が言うと、

「貴族のご婦人には、あまり見られない特技だな…まぁ、いいんじゃないか?アメリアらしくて」
と旦那様は微笑んだ。

私は、

「あ、あともう1つ、特技ではないかもしれませんが、私に出来る事がありました!」
と私が手を叩くと、旦那様は、

「ん?何だ?」
と訊ねる。

「旦那様を笑わせる事が出来ます!笑われている?のかもしれませんが、笑顔に違いはありませんよね?」
と私が堂々と言うと、旦那様は笑いだした。

「確かにな。…もう何年も笑った事などなかったが、アメリアが来てから、笑う事が増えた気がするよ」
と笑いながら言う旦那様は、とても楽しそうだった。
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