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第48話
しおりを挟む「突っ立って、どうした?」
と旦那様に声を掛けられ、ふと我に返る。
「あ…あの……お茶、淹れましょうか?」
…結局、別の事を言ってしまう。
「ん?あ、あぁ…ありがとう」
と少し戸惑い気味の旦那様に、私は少し頭を下げて、お茶を用意する為に部屋を出た。
私は茶器を用意しながら、
(昨日で赤ちゃんが出来てるかもしれないし…毎日って言うのは、旦那様の負担になるわよね?って言うか…普通のご夫婦って、どれぐらいの頻度で体を重ねているのかしら?…あぁ、モーリス先生に訊ねておけば良かった!)
と、今日を諦める為の言い訳を必死で考える。
再度旦那様の部屋へ向かい、お茶を淹れる私に、
「何かあったのか?」
と旦那様は優しく訊ねてくれる。
「いえ?何も」
と、少しだけ自分と旦那様に嘘をつく。
すると旦那様は、
「僕は人の悩みを、解決する力はない。だが、聞く事は出来る。…気が向いたら言え」
と言うと、お茶を一口飲んで、
「やはり旨いな。お前のお茶は」
と言ってくれた。
私は、
「ありがとうございます」
と言うのが精一杯だった。
夜になり、私は悩んでいた。
ローラは今日も張り切って支度してくれた。色っぽい下着も準備万端だ。
…しかし、旦那様が寝室へ来てくれるとは思えない。
どうしようか?
悩んでいる間に、時間は過ぎていく。私は意を決して寝室へ向かう。
1時間、1時間だけ待ったら自分の部屋へ戻ろう。
流石に朝まで独り、夫婦の寝室で過ごすのは惨めな気がする。
寝室への扉を開けると、
「遅かったな。やっぱり何かあったんじゃないのか?」
とソファーに座って果実水を飲みながら待つ、ガウン姿の旦那様が居た。
私は物凄くびっくりしたのだが、辛うじて声をあげるのを我慢した。
まさか旦那様が待っていて下さっているとは思っていなかったからだ。
私が立ち尽くしていると、
「ん?どうした?気分でも悪いのか?」
と心配そうに、私に近寄ってくる。
私は首を横に振る。声を出すと、なんだか泣いてしまいそうな気がする。
「…体調が悪いなら、無理をするな」
と言う旦那様に、私はもっと強く横に首を振って、
「来て…頂けないかと思っておりました…」
と言うが、少し声が震えてしまった。
「は?どうして?お前、1週間、丸印を付けていただろ?違ったか?」
「いえ、違いません!」
と私は言って…つい旦那様に抱きついてしまった。
旦那様は私より背が高い。私は旦那様の胸に顔を押し付けた。涙が零れているのを見られたくない。
「おい…どうした?」
と旦那様は戸惑いながら、自分の胸の部分が少し濡れていくのに気づいたようで、私の頭をゆっくりと撫でてくれる。
旦那様の手は大きくて温かい。
私は、
「旦那様がお優しいので…ちょっと泣いてしまいました」
と少し微笑んで、胸から顔を離した。
きっと涙は止まってる。
旦那様は、
「そんな事で泣くのか…女とはわからない生き物だな」
と、綺麗な瞳を瞬かせた。
こうして、私に瞳を見せてくれる理由はわからないけれど、何だか旦那様の特別になれた気がして嬉しかった。
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