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第45話

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翌朝、旦那様の寝室へ入ると、寝台に旦那様の姿はなかった。

また旦那様は徹夜で魔法研究に没頭していたのだろう。

旦那様は研究を始めると時間の経過を忘れがちで、月に何度かは起こしに来ても、こうして寝台に姿がない事がある。

私は寝室を後にして、執務室へと足を向けた。


『コンコンコン』
ノックをしても返事はない。

これは机に突っ伏して寝てしまっているパターンかもしれない。

これも良くある事だ。

私は、

「旦那様、お返事がないようなので勝手に失礼いたします」
と声を描けながら、扉をそっと開けた。
声も心ばかりか小さめで。

これも、旦那様が座ったまま寝てしまっている時の、私のパターンだ。しかし…

私が扉から顔を覗かせると、旦那様は机に向かって、何かを熱心に読んでいる。

…寝てない…あれ?

私が覗いても旦那様はこちらに気付く様子がない。

ノックや声が聞こえないぐらい集中しているようだ。
私はその場から、もう少し大きな声で、

「あの~旦那様。朝でございます」
と声をかけると、旦那様は肩を大きく揺らし、

「な、な、何だ!び、びっくりするじゃないか!!」
と今読んでいた物を引き出しに急いで仕舞う。
しかし、急ぎ過ぎて指を引き出しで挟んでしまったようで、

「痛っ!」
と今度はその指を押さえて悶絶していた。
…動揺し過ぎではないだろうか?

私は、急いで、

「旦那様!大丈夫ですか?」
と駆け寄るも、

「だ、大丈夫だ!心配ない!来るな!」
と言われつい、

「来るなって…何でです?」
と思わず反論してしまった。

引き出しに仕舞いきれなかったが、少しはみ出している。

…怪しい。何を隠したんだろう。

「な、何でもない。あ!そうだ、お茶を淹れてくれないか?」
と挙動不審ながらも話を逸らす旦那様。

「わかりました。では、お茶を用意して……あ、あれ!あれは何でしょう?」
と私は大きな声を出し旦那様が背にしている窓を指差した。

旦那様は、

「ん?!何だ?!」
と振り返る。その隙に…

「えいっ!」
と私は引き出しからはみ出したを急いで取り出した。

それに気づいた旦那様は、

「あ!馬鹿!触るな!」
と慌てて取り返そうとするも、後の祭り。

「『閨の手解き-初心者向け-』…ってこれ…」
と私が旦那様から奪取した冊子のタイトルを読み上げると、

「ち、違うんだ!誤解だ!あの…たまたま…」
と旦那様が何かワァワァと言っている。

しかし、私が気になったのは、

「これって…私の本です。…あれ?本棚に片付けてなかったかしら?」
と私は首を傾げた。

ユージーンから用意してもらった本や資料には全て目を通したので、本棚に片付けた筈だったのだが?いつ旦那様はこれを持ち出したのだろう?

「はぁ?!これ…お前のなのか?なんで、お前がこのような物を読んでるんだ!?」
と旦那様は自分もそれを読んでいたくせに、それを棚に上げて私を問いただした。

「これは、私の勉強道具です。旦那様が初夜を拒否されたので、自分から旦那様に迫る為にどうすれば良いかと悩みまして。
ユージーンに頼んで、閨に関する資料を集めて貰ったのです。
本当なら、娼婦の方にご指導もして頂きたかったのですが、それは叶いませんでした…」
と私が答えると、

「なっ…!お前は…。だから、酒に酔って僕を襲うような真似を?」

「旦那様を襲ったのは記憶にありませんが、無意識にでも事を成し遂げられたのは、これで勉強したお陰だと自負しております!」
と旦那様の質問に堂々と答えると、旦那様は頭を抱えた。

そして…何故か急に笑い出した。

「ははははっ。お前は…本当に変な女だな。ははは!」

…私、何か面白い事でも言ったかしら?
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