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第39話

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「あー、ジェラルド・モーリスだ。国防相のバルト公爵にお目通り願いたい」

渋っていたモーリス先生だったが、私とメグを連れて王宮魔法省の通用口で面会の要請をしてくれた。

「バルト公爵ですね。直ぐに確認を取ります」
と言って門番のような職員は直ぐに何やら道具に向かって話始めた。

私がそれを不思議そうに眺めていると、

「あれは、魔法を使った通信機です。あれも公爵の発明品ですよ。物凄く高価なのでこの王宮でしか使われていませんが、あれなら、魔法使いでなくても使えるので、とっても便利なんですよ」
とモーリス先生が説明してくれた。


すると、その門の向こうから、

「あれ?ジェラルドじゃないか。珍しく研究所に顔を出しに来たのか?なら、さっさと入って来いよ。
あと、所長がもう少し研究に力を入れろと嘆いていたぞ?」
と深い緑色の髪をした男性がこちらへ近付いて来た。

「いや、今日はバルト公爵に用があってね。研究所にはまた改めて顔を出すと伝えててくれ」
とモーリス先生は少しフランクにその男性に答えた。

その男性は、

「おい、その美人は誰だ?こんな場所に連れて来て…もしや、やっとお前も身を固める決心でもしたのか?」
とニヤニヤしながらモーリス先生に訊ねた。

「違う…この方は、バルト公爵夫人だ」
とモーリス先生が少し呆れた風に言うとその男性は固まってしまった。
…ついでに、門番の方もこちらを向いて何か言いかけたまま固まっている。

…時が止まる魔法でもあるのかしら?いや、私は動けるわね。
私は手を開いたり閉じたりして確認する。…うん。大丈夫。

「は?バルト公爵夫人?って事は…あの噂は本当だったのか?」

緑の男性はそう言うと、

「はじめまして。ジョセフ・リードです。魔法省の事務官をしております。…へぇ~本物だぁ」
と門から出てきて私に挨拶(?)をした。

噂って何だろう。

「はじめまして。アメリア・バルトです。よろしくお願いいたします。…ところで…あのぉ…噂とは?」
と私が訊ねると、それを遮るように、

「くだらん噂ですよ。気にしないで下さい」
とモーリス先生は言った。

ジョセフと名乗った男性もそんなモーリス先生を見て、

「すみません。つい余計な事を。忘れて下さい」
と頭を掻きながら謝罪した。

あまり良くない噂なのだろう。旦那様は嫌われ者らしいし。

すると、門番も我にかえったのか、

「あ、あの~バルト公爵は今会議中ですが、中でお待ち下さいと、オルガ様より伝言です」
とモーリス先生に言うと、カードのような物を3枚手渡した。

「では、これを1枚ずつ持って下さい」
と先生は私とメグにそのカードのような物を配ると、

「ジョセフ、私達は行くよ」
と挨拶をして、門を通って魔法省の中へと入って行く。

私達もジョセフ様に軽く会釈をしてその後をついて行った。


なんの変哲もない扉の前でモーリス先生はその扉に先ほどのカードのような物を翳す。するとその扉はぐにゃぐにゃと形を変えて、重厚な黒と金で彩られた立派な扉へと変化した。

私は驚き過ぎて声も出ない。

モーリス先生はそんな私に笑顔になると、

「さぁ、この扉は先程の通行証を持った人間しか通れませんので、私の後に続いて下さい。では行きましょう」
とその扉を開いた。

…そこには長い廊下とその片側にはずらりと扉が並んでいた。どの扉も黒と金で彩られている。反対側は吹き抜けのようになっており、ここが1階ではない事が伺えた。下からも声がざわざわと聞こえているからだ。

数人の人々が行き交い、書類の入った箱の様な物が空中を飛んでいる。

そんな中へと一歩踏み出すと、

「さてと。1番向こうの扉に行きましょう。あれがバルト公爵の部屋です」

と廊下の1番奥を指差した。

私は、

「あの…ここは…」
と訊ねると、

「ここは魔法省の国防庁です。魔法省の5階部分に当たります。私の研究所はこの建物とは違う場所にあるので、ここではありませんがね。
さっきの扉は通行証で許可された場所へと一瞬で連れていってくれるのです。これもバルト公爵の発明品ですがね」

私は思わずキョロキョロとしてしまう。

廊下を歩きながら、私はこの魔法省の説明を受けていた。
そして、旦那様が物凄い魔法使いなのだと実感する。目にするものの殆んどが、旦那様の発明品なのだ。

さっきから驚いてばかり。口も開きっぱなしで、メグから、

「奥様、そんなに開いていては、目も口も乾いてしまいますよ?」
と笑われてしまった。
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