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第29話
しおりを挟む「おはよーございます!」
私が寝台に近づき眠る旦那様に声を掛けると、旦那様は飛び起きた。
「な、なんだ!何しに来たんだ!?また、僕を襲う気か?!」
「何しにって…朝なので起こしに来ました。流石に朝から襲ったりしませんよ。
顔を洗う桶を用意してます…どうぞお使い下さい」
私は寝台の横のテーブルに桶を置く。
旦那様は何故か固まったままだ。
「…ローラはどうした?」
「ローラから旦那様の目覚まし係の座を譲って貰いました!」
私が元気に答えると、
「何故お前が?」
と不思議そうだ。
え?ダメなのかしら?
「えっと…旦那様は普段お忙しそうなので、顔を合わせる機会がほぼ皆無ですし…こうでもしなければお話する事も出来ないと思いまして…」
「これは…妻の仕事なのか?メイドの仕事だろ?」
…貴族の奥様は旦那様を起こさないらしい。
確かに…継母が父を起こす姿など見たことはない。
「ダメ…でしたか?」
私としては唯一の仕事を取り上げられたくないのだが…。
「ダメでは…ない。聞いていなかったから驚いただけだ」
そう旦那様は言うと、桶で顔を洗う。
私は浴巾を両の手のひらに広げて渡した。
…またもや顔を隠す様子は見られない。これって家族特権かしら?
私は顔を拭いている旦那様に、
「旦那様にご報告しなくてはならない事がありまして…。今回、妊娠はしておりませんでした。…申し訳ありません」
と私が言うと、
「何故お前が謝る?子どもは授かり物だろう?それに、僕に原因がある場合もあるじゃないか。…謝る必要はどこにもない」
旦那様が私に浴巾を渡しながら、私を見る。
「…何をびっくりしたような表情をしてるんだ?おかしな事は言ってないだろう?」
と旦那様が私に言った。
「おかしな事は何1つ…。でも、子どもが出来ていなかったので……旦那様が嫌がっても、また協力していただかないといけないのですが…よろしいのですか?」
と私が首を傾げて言うと、旦那様は初めてその事に思い当たったようで、『しまった!』という表情をした。
そして、慌てて、
「授かり物だと言っただろ!そんなガツガツ…する…ものじゃない…だ、ろ?」
…声のトーンが段々と尻窄みですけど…
「確かに授かり物ですが…ヤらないと出来ませんよ?自然と私のお腹に赤ちゃんが宿る事はないかと…」
私が至極当然の事を言うと、
「わ、わかってる!だが…」
と何かを言いかけた旦那様を遮るように私は、
「でも良かったです!それならば、また協力していただけると言う事ですね!では…いつになさいます?」
「……お前には情緒という物がないのか?」
「情緒で赤ちゃんは授かりませんから」
「ああ言えば、こう言う……。わかった。考えておく」
よっしゃ!言質は取った!旦那様のため息なんて、無視だ、無視!
「はい!お待ち申しております!では…朝食の用意をして参ります!此処にお持ちしたらよろしいですか?」
いつもの様にすれば良いのか私が訊ねると、
「…お前はもう朝食を食べたのか?」
と逆に訊ねられた。
私が否の返事をすると、
「なら、一緒に食べたら良い。食堂で食べよう」
と旦那様は着替えを取りに向かう。
「はい!あの…お召し換えのお手伝いは…?」
「いらん。1人で出来る。お前は先に食堂へ行っていろ。直ぐに行くから」
と旦那様は私に背を向けた。
私は朝食を一緒に食べられる事が嬉しくて
「はい!」
と大きな声で返事をした。
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