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第28話
しおりを挟むそれからの私の毎日は、何事もなく過ぎていった。
根本的に旦那様と顔を遇わせる機会がない。
旦那様は基本、執務室兼研究室に籠っているか、王宮へ呼ばれて出掛けているか…その二択。
あの夜の事を責められる事こそ無かったが、私達2人の距離が縮まるような事もない。
そうこうしている間に月の物が来てしまった。
今回は残念ながら、子を宿す事は出来なかったようだ。
しかし…では次の1手をどうするべきか…。私は悩んでいた。
もうお酒は懲り懲りだし…。次は旦那様も私を警戒するだろうし。
そうして、物思いに耽っていると、
「奥様どうかなさいましたか?」
とローラに訊ねられた。
「…赤ちゃん…出来てなかったの。次はどうしたら良いのか…手段が見当たらなくて」
と私がため息混じりに答えると、
「前にも申しましたように、奥様にはお坊っちゃまと家族になって頂きたいんですよ。
前公爵夫人…お坊っちゃまのお母様は、お坊っちゃまを産んでから体調を崩されて…数年後に亡くなりました。
公爵様も仕事人間でしたから、再婚をなさる事もなく…。
ですから、お坊っちゃまには家族と呼べる存在は、今、奥様しかいらっしゃらないのです」
「私…、家族という物がどういう物なのか…あまりよくわかっていないの。
母は私に優しかったけれど…父は母の事も私の事も疎ましく思っていたし、母が亡くなって義理の母と姉が屋敷に来てからは、父の思う家族の中に私は入って居なかったもの。
そんな人達と一緒に暮らしていても、家族という温もりを感じた事などなかったのよね…。
どうしたら旦那様と家族になれるのかしら?」
私の質問に、ローラは一瞬悲しそうな顔をするも、柔らかく微笑みながら、
「まず、お坊っちゃまと会話をしてみてはいかがですか?」
とアドバイスをくれた。
しかし、そう言われても、旦那様は忙しそうだし…。そうだ!
「なら…、朝、旦那様を起こす事を私の役目にさせてもらえないかしら?
旦那様は忙しそうだし、お食事だって時間が決まっていないからと、お1人で食べていらっしゃるでしょう?
なら…朝ぐらいしか顔を合わせる機会がないし…」
「まぁ!…それではそのお役目、奥様にお譲りいたします!私も楽になりますよ。お坊っちゃまは寝起きが悪くて苦労しておりましたから。助かります!」
ローラが嬉しそうなので、私も嬉しくなる。
ここに来て、暇を持て余していた私にも、子作り以外の仕事が出来た。
私はその事に、無意識に安堵していた。
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