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第22話

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「はいっと。これ頼まれていた資料です」

ドサッと、私の部屋の机に、大量の本が置かれた。

「ユージーン様、すみません。お忙しいのに」

「いえいえ。あ、俺…私の事はユージーンで良いですよ」

「それでは、そう呼ばせて頂きますね。
それと…『私』に言い換えなくても大丈夫ですよ?
資料…こんなにたくさん…ありがとうございます」

私がローラに頼んでいた閨に纏わる事が書かれた本をユージーンさ…ユージーンが持って来てくれた。
…結構な量があるが、どうせ暇なので、読破出来そうだ。

「こちらこそ…女性であるアメリア様にこんな風に気を使わせるなんて…本当に情けない主人ですよ。あの人は」
と顔を歪めるも、ユージーンすらも旦那様の気持ちを変えるのは困難だと思っている様子が伺える。

「ところで…娼婦の件はどうなりました?」
と私が訊ねると、ユージーンはばつが悪そうに、

「アメリア様…本当に娼婦の方の手解きを受ける気ですか?
…こう…言葉にするのは難しいんですけどね、女性の方からガツガツ来られるのが苦手な男性もいる訳ですよ。
…なんなら、恥じらって貰う方が…そそられると言うかですね…。
少なくとも俺はその部類かなぁ~なんて思うんですよ」

ユージーンの言いたい事のニュアンスは伝わる。しかし、

「そうなんですね…男性にも色々と好みがあるのでしょうけど…旦那様がその気になるのを待っていては、私、おばあちゃんになってしまいそうです。
ユージーンがそういう女性が好みなのはわかりましたが…では旦那様は?
私が今知りたいのは、ユージーンの好みではなく、旦那様の好みのタイプです」

ユージーンの好みなど、どうでも良い。

「うーん。そう言えばウィル様とそんな話はしたことないですね。どうなんだろ?」
ユージーンは首を傾げるが、答えは持っていなさそうだ。

「ユージーンと旦那様は主従関係と言うより、友人のように見えます…昔からのお知り合いなのですか?」

2人の会話は、とても気安い感じに見える。

「俺達は魔術学校の同級生なんですよ。俺は侯爵家の三男でね。継ぐ家もないし。で、俺はウィル様の魔法の才能に惚れ込んで、自ら侍従に名乗りをあげた訳です」

なるほど。ユージーンは侯爵のご子息だったのね…。
彼の口振りから察するに、旦那様は本当に凄い魔法使いなのだろう…嫌われてるらしいけど。

「旦那様は…いつもどのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょう?」

「領地は御覧の通り、森ばかりでね。領民は森に住む木こり達ぐらいです。あとは教会の関係者数名かな?
なんで、産業らしい産業はないんですけどね。ただ、ウィル様は魔法で使える道具を研究して作り出し、その製造法で儲けてます。…それと1番大きな役目…それが国防です」

「では領地経営などは…」

「殆ど必要ないぐらいです。ただ、この森を管理してるって感じですかね。まぁ、道具を生み出してるんで、金は腐るほどあると思いますよ。国防でもかなりの給金を貰ってますし。
なんで、アメリア様はお金の事は気にせずバンバン使っちゃって下さい!」


…バンバン使う場所がないし、使い道さえわからないのだけどね。
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